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COLUMN

コラム

#33
AIガバナンスに関する提言Ver 3.0の公表に際して
谷脇康彦(デジタル政策フォーラム代表幹事) | 2026/03/06

 デジタル政策フォーラム(DPFJ)は、2024年春からAIガバナンスに関する議論を続けてきた。AIガバナンス[1]、すなわち急速に進化するAIの技術的・社会的なコントローラビリティをどのように確保していくかという課題を主テーマに多数の有識者や政府・企業関係者と議論を深め、2024年7月に第一弾の提言[2]、同年12月に第二弾の提言[3]を公表した。

 第一弾の提言では、AIガバナンスとして、(1)AIリスクの最小化、(2)AIの利便性の最大化、(3)健全な市場環境の整備という3項目を議論の柱として設定した上で主要論点を整理した。この枠組みは第二弾、そして今回の第三弾[4]においても踏襲している。

 第三弾をまとめる過程で実感したのは、AIの実利用が企業や個人のレベルで急速に進んでおり、これに伴い、AIを巡る論点も具体化している点である。例えば、企業ヒアリングでは、AIに対する経営層の理解が深まり、AI活用が経営戦略の主要アジェンダになっていること、またAIによる経営効率化(コスト削減)だけでなく、新しい事業を創出するという付加価値の向上の視点が数多く見られるようになってきていることが明らかになった。

 また、今回の提言の特徴の一つとして、AIを巡る政策議論が、産業政策、競争政策、科学技術政策、安全保障政策[5]、外交政策など幅広い分野に及んでおり、かつそれそれの政策領域の相互連関性が強まっているという点も挙げられる。これはAIガバナンスのあり方が国益に直結する重要度の高い政策テーマになっていることを意味している。他方、国際的にみると日本における政策議論は必ずしも進んでおらず[6]、積極的に推進することが求められている。

 さらに、AIの実利用が進展する中、議論すべき論点の対象範囲も大きく拡大している。具体的には、AIを巡る政策議論にとどまることなく、AIは社会経済の何を変えるのか、例えばAIと創造性(クリエイティビティ)の関係、デジタルデモクラシーの可能性、宗教とAIの関係性[7]など、今回の第三弾の提言はこれまでの議論を大幅に拡張したものとなっている。かつてインターネットは時間と距離の制約を越えることを可能にした。今、AIは言葉の壁を越え、組織の壁を越え、サイバーとフィジカルの壁を越えることを次々に可能にしている。データ駆動型社会の加速化装置であるAIの実装がどこまで大きなインパクトをもたらすのか。これまでのIT中心のテックコミュニティだけでなく、幅広い領域の専門家とのコラボレーションも今後AIガバナンスを巡る議論において重要になってくるだろう。

 AIを巡る議論で注意を要するのは、議論の対象であるAIそのものが引き続き急速に進化し続けているということだ。米国の著名なAI研究者であるエリーザー・ユドコウスキー博士は「AIの最大の危険は、人々がそれを完全に理解していると信じてしまうことだ」と警鐘を鳴らす。DPFJはAIを巡る技術動向や市場変化、さらに社会経済構造に与える影響などを定点観測的に分析し、第四弾の提言としてまとめる予定である。

 なお、第三弾提言の作成に際しご協力をいただいた有識者や企業等の関係者の皆様にこの場を借りて深く感謝申し上げたい。


[1] 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」(2025年3月)総務省・経済産業省)において、AIガバナンスは「AI の利活用によって生じるリスクをステークホルダーにとって受容可能な水準で管理しつつ、そこからもたらされる正のインパクト(便益)を最大化することを目的とする、ステークホルダーによる技術的、組織的、及び社会的システムの設計並びに運用」と定義されている。

[2] DPFJ「AIガバナンスの枠組みの構築に向けてver 1.0」(2024年7月)https://www.digitalpolicyforum.jp/wp-content/uploads/2024/06/240701_AI01.pdf

[3] DPFJ「AIガバナンスの枠組みの構築に向けてver 2.0」(2024年12月)https://www.digitalpolicyforum.jp/wp-content/uploads/2025/11/d131931-11-21d70f4f876432af8925750b8a24cf20.pdf

[4] DPFJ「AIガバナンスに関する提言 Ver 3.0」(2026年3月)https://www.digitalpolicyforum.jp/ai-governance-recommendations-ver-3-0

[5] 米アンソロピック社は、同社の生成AI「クロード」について、国防総省が求める軍事利用は米国市民の監視につながるとして拒否した。(出典:日本経済新聞2026年3月3日付記事)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN02B230S6A300C2000000/

[6] OECDは2026年2月「AI指標 (AI Index)」と題するレポートを公表し、OECD加盟各国のAI進捗度について、研究開発、基盤整備、政策環境、雇用とスキル、国際協力の5つの領域ごとに0から1の間でスコアリングを試みている。これによると、政策環境(政府のAI利用、AIへの投資環境、AIガバナンス構造の確立)という領域で日本の数値(0.46)はG7平均(0.55)を下回り、米国(0.87)の約半分となっている。https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2026/02/oecd-ai-observatory-index_8f5fa0f2/32c01014-en.pdf

[7] 仏京都大学「人と社会の未来研究院」とベンチャー企業のテラバース及びXNOVAが共同開発したヒューマノイドロボット「ブッダロイド」は仏教の経典を学習した生成AIを搭載し、相談者の問いに対して仏教思想に基づく回答を行う他、合唱や礼、坐禅などの宗教的所作も再現可能となっている。(出典:IT Media News 2026年2月25日付記事)https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2602/25/news096.html