デジタル政策フォーラム

領域を越えたグローバルなデジタル政策
その議論をリードする
産学官を超えた熟議プラットフォーム

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Cybersecurity Awards2026の作品募集を開始しました。

デジタル政策フォーラム(代表幹事:谷脇康彦、略称:DPFJ)は2025年10月1日(水)、「サイバーセキュリティアワード2026」の募集を開始します。募集期間は11月30(日)までの2カ月です。大賞賞金は30万円。奮ってご応募ください。

AIガバナンスを巡る論点2025

「AIガバナンスの枠組みの構築に向けて ver3.0」へのアップデートに向け、様々な分野・領域における専門家との対話を重ね、「近未来の論点」を丁寧にあぶり出していきます。

オープンカンファレンス『データガバナンス戦略の実現に向けて』開催のお知らせ

DPFJ(デジタル政策フォーラム、代表幹事:谷脇康彦)は、2025年6月23日にDSA(一般社団法人データ社会推進協議会、代表理事:奥井規晶)及びJDTF(一般社団法人デジタルトラスト協議会、理事長:宮崎一哉)と共同して声明「官民連携によるデータガバナンス戦略の実現」~政府「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の決定を受けて~を公表しております。

本声明を踏まえて、DPFJでは2025年7月29日にオープンカンファレンス『データガバナンス戦略の実現に向けて』を開催し、カンファレンスでの動画と基調プレゼンテーションの資料を公開しましたのでお知らせいたします。

デジタルガバナンスについての取り組み

領域を越えたデジタル技術の活用を通じて社会的課題の解決を図るため、デジタル技術の活用方策(ルール)など、デジタルガバナンスに関する制度を設計し、提言する。

データガバナンス

データガバナンス

戦略的な無形資産であるデータを最大限活用

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AIガバナンス

AIガバナンス

データ流通の加速化装置であるAIを適切に制御しつつ利活用を推進

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セキュリティガバナンス

セキュリティガバナンス

データの真正性の確保など新たなサイバーセキュリティの確保

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コラム

#29 自民党総裁選2025とデジタル政策
谷脇康彦(デジタル政策フォーラム代表幹事)

 10月初めの決定に向け、自民党総裁選が現在行われている。報道でも5名の候補者の動静が連日伝えられている。そこで、デジタル政策に関する熟議プラットフォームであるDPFJとして、5名の候補者のデジタル政策、つまりデジタル技術のあり方についてどのような問題意識を持っているのかという点を探ってみることとした。

 本稿は各候補者の政策に優劣をつけようというものではなく、最大限に中立であることを基本方針とする。そして判断材料に用いるのは、自民党ウェブサイトの総裁選特別サイトに掲載された各候補者の「所見」(機関紙「自由民主」(本年9月30日付)の各候補者A4版1枚の政策メニュー)に限ることとし、候補者間の評価資料の取り扱いについて公平を期すこととした。

 さて、各候補者の所見を見ていて最初に気づくのは、やはり地域活性化が最大の課題の一つとして位置付けられていることだ。先の参議院選挙の争点も同様であったが、経済の先行き不透明感と所得分配の不公平性に対する有権者の不満に政治としてどう向き合っていくのか、そのための地域活性化の道筋をどう付けるのか。その重点領域の一つとしてデジタル産業が掲げられている。

 そこで第一の論点は産業政策。例えば小林候補は、半導体・AI産業支援など、デジタル産業における国の積極投資(財政出動)と民間投資への支援の必要性を訴えている。高市候補もまた、デジタル領域などの成長分野への積極投資を「官民連携フレームワーク」で行うとともに、大胆な投資促進税制の創設を主張しており、小林候補の主張と共通する部分がある。また、茂木候補もAI、半導体、データセンターなどを例示しつつ、地方の産業集積拠点を生み出すことが必要だと指摘する。さらに、林候補は「DX(含むAI)の推進」という短い言葉でデジタル産業に触れるとともに、「スタートアップ企業の支援、創業力の強化」という他候補が言及していない項目にも触れている。

 なお、産業支援の具体的な手法について、茂木候補は「2,200兆円規模の個人金融資産などを投資に振り向け」るとともに、設備投資における「即時一括償却」を認めるなど、民間資金の最大限の活用を打ち出しており、財政出動に力点を置く小林・高市両候補とはやや異なる印象を受ける。

 こうした産業政策に関わる政策比較の中で興味深いのは、高市候補の経済安全保障と産業創出を一体的に推進するというアプローチだ。「経済安全保障に不可欠な成長分野」において産業を育てるという問題意識は、安全保障に直結する自国産業の育成イコール経済安全保障の強化であり、デジタル主権に裏打ちされた政策となっている。

 産業創出と経済安全保障の強化の両立という観点は、小林候補の政策メニューにも伺える。産業支援対象の分野として取り上げている中には、半導体・AI産業以外にも、「ソブリンAI」や「国産クラウド」が含まれているが、この「ソブリン」あるいは「国産」という部分にデジタル主権確保に向けた一種の「こだわり」が感じられる。

 ここで改めて「デジタル主権(digital sovereignty)」について確認しておきたい。「デジタル主権」とはデジタル技術に関して国家主権が確保されていることを意味し、「データ主権」(自国のデータに対する管理権の保持)と「技術主権」(自国のデジタル技術の開発・運用権の保持)の2つの要素に分かれる。前述のソブリンAIは日本自ら学習データを用いてLLMを作り上げて日本企業を軸に開発・運用されるAIであり、国産クラウドは日本企業が自らデータセンターを設置して顧客データを管理・運用することを意味している。

 これに関連して、総裁選特別サイトに掲載されている動画の中で、林候補は現在6.7兆円(2024年)まで積み上がっている「デジタル赤字を減らしていく」ことの重要性に触れているが、このデジタル赤字を巡る議論はデジタル主権の重要性と表裏一体の関係にある。しかしながら、「デジタル主権」あるいは「データ主権」という考え方は日本では未だ政策として明確に位置付けられていない。欧州などの議論を参照しながら、今後、日本でも同様の検討を急ぐ必要があるだろう。

 第二の論点は安全保障政策。安全保障関連の項目の中でもデジタル政策絡みのものが多数含まれている。例えば小林候補は、データセキュリティ、サプライチェーン強化のための経済安全保障法改正、外為法改正による投資審査の更なる強化などを挙げている。また高市候補も、新たな態様の戦争(宇宙・サイバー・電磁波領域等)にも対応できる国防体制の構築、衛星と海底ケーブルの防衛、ディアルユース技術による防衛関連産業の育成と民生分野へのスピンアウトの推進などを掲げている。

 ちなみに、高市候補のいう「新たな態様」について検証に用いた「所見」だけでは情報量に欠けていて明らかではないが、サイバー空間に限って言えば、2022年12月の国家安全保障戦略でも言及されているように、一般には有事と平時の境目が曖昧となっているグレーゾーン事態や、軍事と非軍事の境界が不明確となっているハイブリッド戦争を念頭においていると考えられる。小林候補の「新たな戦い方への対応」という項目も同様だろう。

 さらに、偽誤情報などを活用した認知戦への対応の必要性についても、小林候補が「外国干渉防止法」の制定を主張している他、高市候補もサイバープロパガンダ・偽情報に対応できる技術開発・人材育成といった項目を掲げている点が注目される。特に先の参議院選挙においてサイバー空間における偽情報の流布などの干渉行為が実際に発生したとの指摘もある中、こうした取り組みは重要だろう。

 ちなみにAIについての言及はそれほど多くないが、AIが普及する中で教育のあり方を見直していく必要がある点について林候補(AI社会を念頭においたコミュニケーション能力、想像力、判断力の向上)と小泉候補(AI革命の加速を踏まえた教育レールの複線化など教育改革の検討)が言及している。

 各候補わずか1枚の「所見」と題する政策メニューだけで政策の優劣を判断することは到底できないし、適切でもない。しかし、「5候補=5枚」の所見(政策メニュー)に絞って、しかもデジタル政策という視野に限定してみただけでも、地域活性化の手法の違い、産業育成と経済安全保障の両立、認知戦を含む新たなサイバー領域での戦い方への対応など、多くの論点が含まれていることが理解できる。新しい体制の下でデジタル政策が大きく前に進むことを期待したい。

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