AI×安全保障において何が重要か
松原 冬樹
Arrowheads代表取締役
AIガバナンスを巡る論点2025 #22
<特集> AI×クリエイター
私の視点
AIビジネスの創造に挑戦している若手起業家たちの眼には、どのような風景が映り、何を感じているのか――。最先端のAI TRiSM(Artificial Intelligence Trust, Risk, and Security Management)技術開発・セキュアなAIソリューションを提供する東大発ITベンチャー、Arrowheadsの松原冬樹 代表取締役の視点。

私はArrowheads株式会社を創業し、現在はAIセキュリティ・サイバーディフェンスソリューションを開発・提供させていただいております。AIが凄まじい勢いで進化を続ける中で、小回りの利くベンチャーは変化に対応がしやすいと感じています。そうした立場から見て、今、「AI×安全保障領域で何が必要だと考えるか?」と問われたなら、「縦割り組織」を一度壊し、組織内の情報(コンテキスト)の流れを良くすることが重要であることを述べたいです。
AIの進化は、すでに安全保障の在り方そのものに大きな影響を及ぼしています。情報収集、分析、意思決定はもちろん、サイバー戦からオンラインHUMINT(human intelligence、人間を媒介とした諜報)に至るまで、従来は人間や組織が時間をかけて行ってきたプロセスが、急速にAIによって置き換えられつつあります。そして、ある特定の分野に限定されることなく、多発的に変化が進行しています。
人類が考案してきた概念の壁など構わずに押し寄せてくる想定外の大波に、縦割り組織が十分に対処できるようには思えません。情報がサイロ化して横に伝わらない、人と人とが壁を越えて交わらず、コンテキストの共有ができていない。その結果、AIに関する情報や問題意識が、組織や分野を越えて共有されにくく、現場で見えている変化やリスクが、全体戦略の議論に結びつくまでに長い時間がかかり、対応がどうしても後手に回ってしまう。先手を打つべき安全保障の分野で、結果として「かなり後方から追いかける対応」になってしまうのではないでしょうか。
例えば、国産LLM(大規模言語モデル)について、安全保障の観点から必要だという指摘がすでに様々なところでなされています。基盤モデルは米国大手プラットフォーマーに大きく先行されており、今すぐ同等レベルの性能を有する国産モデルを構築することは難しいと言われています。ただ、安全保障の観点からは完全な他国依存は非常に危険であると考えています。もし、それが何らかの要因で使用不能になったり、シャットダウンされたりするようなことがあれば、国家的な危機を招くことになりかねません。
AIは、分野横断的にコンテキストをつなぐことにより、本来複雑である意思決定をも担えるようになります。それを使う側の組織が分断されたままであれば、AIの強みを十分に生かすことは難しいと考えます。安全保障という国家レベルはもちろんですが、日本経済を支える個々の企業レベルにおいても「AIによる大変化に対応するための組織の構造」について議論を活発化していくべきではないでしょうか。
松原 冬樹 / Fuyuki Matsubara
Arrowheads 代表取締役
卒業後、J.P.モルガン証券にて 株式オプショントレーディング業務・機械学習モデルの開発/運用を行う。
Arrowheads株式会社創業後、データアノテーションプラットフォーム、AIセキュリティサービスを開発・提供。
国際学会、CTFやハッカソンにて受賞歴多数。
