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抑圧された創造性の解放が映画を変える

山口ヒロキ
映画監督

AIガバナンスを巡る論点2025 #19
<特集> AI×クリエイター

生成AIの登場と進化は、映像クリエイティブにどのような影響を及ぼすのか――。映像・音声・音楽すべてを生成AIで制作したオムニバス映画『generAIdoscope:ジェネレイドスコープ』で『グランマレビト』 を担当した山口ヒロキ監督に聞いた。(聞き手は、菊池尚人 デジタル政策フォーラム 代表幹事代理/慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 特任教授)

山口ヒロキ監督山口ヒロキ 監督

オリジナルのSF映画を創りたい、しかし壁は厚く・・・

私が映画監督として活動を始めてから20年以上、ずっと心の奥にあったのは「オリジナルのSFをもっと創りたい」という思いでした。しかし実写でSFを制作するには、あまりにも多くの制約があります。未来都市や架空の世界を描くには高度な技術と莫大な予算が必要です。結果として、描きたい世界観を圧縮し、観る側の想像力に委ねる表現を選ばざるを得ませんでした。

転機は2023年後半に訪れました。それまでは生成AIに関心を持ちつつも、映画制作に使えるレベルではないと感じていました。しかし年末にかけて、AIが生成する映像のクオリティが一気に跳ね上がったのを目にして、「これは近いうちに生成AIを使用した映画がつくれるかもしれない」と直感しました。とりわけAIはSFとの親和性が高く、これまで諦めてきた世界観の表現が現実味を帯びてきたのです。

生成AI映画『generAIdoscope(ジェネレイドスコープ)』の挑戦

最初に手がけたのは、6分ほどの短編映画でした。当時の生成AIは長い動画を一気に出力することができず、しかもスローモーションのようなものばかりでした。1回に2秒ずつくらいの映像でしか生成できないので、生成作業を何回も何回も繰り返し、断片をつなぎ合わせていくという、とても時間がかかる作業でした。そうした生成AIの制約を前提に脚本を組み立て、編集を加えることによって映画としての流れをつくっていきました。

試行錯誤の末に完成した作品『IMPROVEMENT CYCLE-好転周期-』は、いくつもの海外の映画祭に入選・受賞することができました。そして、次の挑戦として生まれたのが、オムニバス映画『generAIdoscope』(2025年8月公開)の一編である『グランマレビト』です。脚本家さんの書いた脚本に基づいて、生成AIだけで本当に映画を完成させられるのか、その実験的な試みでした。

私が担当した14分の作品『グランマレビト』では、架空の都市や、細部まで作り込まれたSF世界を画面いっぱいに詰め込みました。イメージしていた風景を、初めて映像として表現し切れたという実感があります。

ただし、AIを使えばすべてが簡単にできるというわけではありません。特に『グランマレビト』を制作していた2024年秋から2025年の年始の頃は、登場人物の見た目の一貫性が保てない、思い描いたカメラアングルからの映像を生成できない、後ろ姿のショットがどうしてもうまく出力されないという事が多々ありました。あるシーンでは、どうしても生成できないカットがあり、脚本やカット割りを根本から変更せざるを得ませんでした。AIは万能ではなく、試しては失敗し、考え直し、表現を組み替える必要がありました。

とはいえ、そのプロセスはこれまでの映画づくりと本質的には何ら変わりありません。制約があるからこそ、感性を研ぎ澄ませ、シビアに表現を選択するということも同じなのです。

『グランマレビト』の制作は分業で進めました。私が映像イメージを言語化し、演出意図を細かく指示書に落とし込み、それを元に複数のアシスタントとリモートで作業を分担しました。結果的に、アニメ制作というより、漫画家の制作工程に近い感覚になっていきました。

究極的には一人でも完結できる作業ですが、仲間がいることでスピードと密度は格段に上がります。演出部出身のスタッフは、脚本を読み解き、感情や動きを理解する力に長けており、AIによる映像生成とも相性が良いと感じました。こうした新しい制作体制は、映画づくりのあり方そのものを改めて問い直す良い経験でもありました。

飽和の先に真価が問われる

海外の映画祭に招待していただいた中で、AIで映画を制作する多くの監督たちと交流するようになりました。

韓国では2024年の段階でAI映画祭が既にいくつも開催されていました。世界中でAI映画制作のチャレンジが熾烈化していますから、遠からず、踊り場というか、飽和状態に達するのではないかと見ています。その時、自分自身の作品をどう際立たせるのか、どのような世界観を描くのかという映画監督としての原点が問われることになると思います。

私にとって、AIで映画をつくる意義は明確です。それは「クリエイティブの解放」です。頭の中にありながら、技術や予算の制約によって表現できなかったものが、ようやく外に出してかたちにすることができるようになった。抑圧されていた創造性が少しずつ解き放たれていく。その実感が、次の挑戦へと私を駆り立てています。

試し、壊し、創り続けていく

今、過去に実写で制作したSF映画をAIでリメイクする計画を進めています。当時は諦めざるを得なかったシーン描写や世界観の表現を、AI技術を使って実現したいと考えています。また、AIと実写を組み合わせたハイブリッドな映画制作にも取り組んでいくつもりです。

AIはあくまで道具です。何を描きたいのか、どんな世界を観客と共有したいのか。その問いに向き合い続けることが、映画監督の仕事だと思っています。道具が変わっても、その本質は変わりません。私はこれからも、試し、壊し、創り続けていきます。新しい表現の可能性を信じて。


Interviewee

山口 ヒロキ / Hiroki Yamaguchi

映画監督

2004年、自身初の長編映画『グシャノビンヅメ』がモントリオール・ファンタジア国際映画祭でグランドブレーカーアワード銀賞を受賞。代表作は『メサイア』シリーズ、『血まみれスケバンチェーンソー』シリーズ、『トリノコシティ』など。2024年、AI映画『IMPROVEMENT CYCLE -好転周期-』がプチョン国際ファンタスティック映画祭を始めとした海外のAI映画祭に多数入選・受賞。現在は実写に加え、AIを使用した映画・MV・CM・プロジェクションマッピングなどの映像を制作。また、生成AIに関するアドバイザーとしても国内外で登壇を行っている。