面白がって、使ってみて、行動してみる
博報堂テクノロジーズ
木下陽介 執行役員に聞く
AIガバナンスを巡る論点2025 #15
<最前線> 企業のAI利活用
OpenAIの生成AI「ChatGPT」が2022年11月にリリースされてから3年が経過した。日本の企業・組織における導入・利活用はどこまで進んでいるのか、今後の課題は何か――。AIガバナンスを巡る論点をあぶり出すシリーズ第15回は、博報堂DYグループのAIプロダクト開発やAI利活用を推進する博報堂テクノロジーズの木下陽介 執行役員/マーケティング事業推進センター長へのヒアリングの骨子を凝縮してお伝えする。(聞き手は、菊池尚人 デジタル政策フォーラム 代表幹事代理/慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 特任教授)
木下陽介 博報堂テクノロジーズ 執行役員AI利活用の現状
◾統合マーケティングプラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM」の開発
- 木下執行役員が開発・推進のリーダー
- トップクリエイター TBWA HAKUHODO の細田高広チーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)のコンセプト開発手法をAIで再現した STRATEGY BLOOM CONCEPT、通称「細田AI」を全社展開。得意先のマーケティング業務/事業成長を支援(AIと人が共創するコンセプト開発 ~CREATIVITY ENGINE BLOOM Vol.2 | グループトピックス | 博報堂DYホールディングス)
- 細田AIの利用社員は約2000名に達し、コンセプトワーク労働時間を約4000時間削減
◾イマジネーションパートナー「バーチャル生活者」の開発
- 2024年3月にプロトタイプを発表
- 2025年11月に“エビデンスベースド”「バーチャル生活者」をリリースし全社展開。博報堂が保有する豊富な生活者データを基にAIによって様々なペルソナの生活者を再現。バーチャル生活者との対話によって、マーケティング施策の立案に活用推進中(博報堂DYグループ、AIがデータに基づき再現した複数の生活者との会話を実現生活者発想を支援する”エビデンスベースド”「バーチャル生活者」を開発 | コーポレートニュース | 博報堂DYホールディングス)
◾AI利活用方針「Human-Centered AI Professionals」
- AI関連の人財や知見、データ、ネットワークなどのリソースを結集し、企業のマーケティングや事業成長を総合的に支援する専門集団として組成
- AI活用は単なるDXではなく、マーケティングのあり方そのものを進化させる基盤と位置づけ(Human-Centered AI Professionals – 博報堂DYホールディングス)
- AIによる新しいマーケティングでクライアントのビジネスを支援する
- 目指すのは、マーケティング業務プロセスの「効率化」と「高度化」
◾導入と推進
◾ワークショップ活用によるクライアント共創
- クライアントのニーズに合わせたGems(ユーザーごとにカスタマイズできるGeminiの機能)をHCAI Professionalsのメンバーにより、共創型で業務を進める取り組みを拡大
- クライアントとのワークショップでのAI活用を推進。コンセプトワーク、アクションプラン、アイデアの生成・洗練化、ドキュメント作成、未来シナリオ作成など。プロンプト設計にこれまでの経験知が生かされている。AIを活用したクリエイティブワークのテストベッドになっている
- 顧客から「社員がなかなか使ってくれない」という相談を受けることもある。生成AI普及のためのエバンジェリストを選任して普及啓発するコンサルティング・メニューは意外に好評。AI活用に働き方改革に関する相談も増えている
◾組織・働き方の変化
【ポジティブな変化】
- プロジェクト初期にかかる時間が短縮、クリエイターは考えることに時間を多くとれるようになった
- マーケ職がクリエイティブ、クリエイティブ職がマーケ業務など、越境による多技能化が進展
- 働き方改革の推進(長時間労働の抑制)、DX受容度がアップ
【ケアすべき要素】
- 過度に「正解」を求める傾向、「即納品可能な答え」を求める傾向が初期にはあった
- 失望感が高まると利用停滞のリスクがあるため期待値コントロールが必要
- 「正解」ではなく「別解」を引き出すものであるという考え方の浸透
◾効果測定の考え方
- 「労働時間の短縮」と「成果物の質的向上」の両面からの測定・評価が必要
- 単なる「利用人数がどれだけ増えたか」を成果指標とはしない
- 広告会社で以前よく行われていた「広告コピーを100本書く」といったタスクはAIなら数秒でアウトプットできてしまう。AIに任せられることは任せ、人間は人間でなければできないことに集中し、全体の付加価値を上げていきたい
- 現在、より短い時間でより高品質な成果につながるような指標設計に取り組んでいる
AI導入推進活動における心がけ・気づき
◾人材育成・能力開発の方向感
- 生成AIを使って簡単にコーディングができるバイブコーディングやノーコードまたはローコードで生成AIアプリケーションを開発・運用できるオープンソースプラットフォームが整備されてきている。クライアント向けのAIエージェントを担当コンサルタントが作成するようなことも可能になってくる。AIエージェントの開発や生成AIの便利な使い方などのAI活用ナレッジを、社員一人ひとりが「ベーススキル」として習得していくことが必要になってくるのではないか
- それ以上に重要なのが「ソフトスキル」。様々な専門性・価値観を持つメンバー間で、AIによる出力を基にして付加価値の高い結論を導くための「コミュニケーション能力」「会議体・ワークショップ運営能力」「課題解決に向けた協働能力」などが求められるようになる。そうした能力開発手法の設計に着手したい
Interviewee
木下 陽介 / Yosuke Kinoshita
株式会社博報堂テクノロジーズ 執行役員、マーケティング事業推進センター長
株式会社博報堂にて、マーケティングやコンサルタント職として多数の業種の企業を担当。2010年より研究開発職としてマーテク、アドテク、AIやXR技術を活用したマーケプロダクト開発を推進。現在、 博報堂DYグループの統合マーケティング基盤「CREATIVITY ENGINE BLOOM」開発のリーダーを務める。



