情と理、両面からのアプローチが大切
東京海上日動火災保険
牧原卓也 CX・dX推進部長に聞く
AIガバナンスを巡る論点2025 #14
<最前線> 企業のAI利活用
OpenAIの生成AI「ChatGPT」が2022年11月にリリースされてから3年が経過した。日本の企業・組織における導入・利活用はどこまで進んでいるのか、今後の課題は何か――。AIガバナンスを巡る論点をあぶり出すシリーズ第14回は、東京海上日動火災保険の牧原 卓也 CX・dX推進部長へのヒアリングの骨子を凝縮してお伝えする。(聞き手は、菊池尚人 デジタル政策フォーラム 代表幹事代理/慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 特任教授)
牧原 卓也 東京海上日動火災保険 CX・dX推進部長AI利活用の現状
◾AI利活用の3つの目的
- 生産性向上によるリーンな業務運営
- データを活用したアンダーライティング(リスク評価と保険条件の設定)の効率化・高度化
- 顧客接点の拡大と価値提供の向上
◾生産性向上によるリーンな業務運営
- 代理店からの照会応答に関し、電話からメールへの移行を推進中。移行の取り組みにより蓄積されたデータは全国で約100万件。これらのデータを活用し、生成AIを業務フローに組み込み、事例を選択したうえで回答案を生成する仕組みを構築(複雑性の高い保険領域に特化した照会応答システム「AI Search Pro」を共同開発~照会応答時間を大幅削減し、お客様への新たな価値提供の拡大へ~)
- 2024年11月にサービスインし、現在、照会全体の4割で活用されている。これにより、電話入電量は約3割削減した
- 代理店支援を目的に、代理店システムにAIを組み込むためのPoCが進行中
◾社内版ChatGPTの展開
- 2023年10月、セキュアな環境を構築し、全社員向けに提供開始(全社員向け生成 AI “One-AI for Tokio Marine”の活用開始 ~ChatGPT による業務効率化を実現~)
- 生成AI初心者向けに「クイックスターター機能」を実装。利用目的別にワンタッチでプロンプトが入力される仕組み。プロンプト事例集の配布や研修も実施中
- 部門ごとの業務マニュアルを読み込ませ、部門のデータを基にAI検索が可能となる社内RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)機能を提供
- 現在のMAU(マンスリー・アクティブユーザー)は約65%(パート社員を除く全社ベース)、月10回以上利用のミドル・ヘビーユーザーは約41%と年度初から倍増
- その他、Copilot無償版、ChatGPT Enterprise(ヘビーユーザー向けに約2500IDを配布)なども活用(生成 AI を活用した業務基盤進化に向けた OpenAI との戦略的連携について ~付加価値の高い顧客体験を実現する AI エージェントの実現に向けて~)
◾データを活用したアンダーライティングの効率化・高度化
- ドライブレコーダーデータの活用(東京海上日動のドライブレコーダー付き自動車保険「ドライブエージェント パーソナル」)
- 課題は、事故時に取り付ける見積書のPDFデータをはじめとする非構造化データが多いこと。これらを含めたデータ基盤の整備を推進中
- 海外の保険会社はAIによるアンダーライティングの高度化で先行している。ベンチマークとして動向をしっかり把握していく
◾顧客接点の拡大と価値提供の向上
- 中期経営計画Re-New2026(2024~26年度)で、「本当に信頼されるお客様起点の会社」「リスクソリューション(保険+α)で次代を支える会社」の2つを掲げた。顧客との接点をもっと増やしていくためにAIを最大限活用する
- 2023年より取り組んでいるNPS(ネット・プロモーター・スコア)のデータをもとに顧客からの評価データや既存契約データを統合・活用することで顧客理解の深化を図るカスタマー・データ・プラットフォーム(CDP)を2026年2月にリリースする。また、同CDPによる顧客理解を基盤として、将来的にはAIを活用したパーソナライズドされた提案につなげる仕組みを検討する
- コンタクトセンターへのAI導入を2026年3月目途に実施。ボイスボットによる初期対応の自動化、Speech to Textと生成AIを組み合わせたオペレーターへの回答案サジェストや応対記録作成の自動化によるアフターコールワークの削減を企図。ウェブ(月間約150万UU)との連携も強化し、問い合わせ対応の自動化比率を高めていく
◾人材育成
4階層に分け、①役割と②育成方針を設計
DXリーダー(経営層・部店長)
- ① DX戦略の主導と組織風土の醸成
- ② 知識と意識の両面の習得をめざし、部店長向けに早朝講座やワークショップなどを開講
DXコア人材(本社)
- ① データおよびデジタルに関する施策の立案と業務高度化
- ② スキルセットを把握し、育成計画に反映
DXドライバー
- ① 各組織のDX推進リーダー
- ② 伴走支援を通じた、DXリテラシー・スキルの習得および組織推進強化
全社員
- ① DXリテラシー・スキルの習得および社内デジタルツールの徹底活用
- ② 各業務での活用、動画コンテンツの活用促進、ITパスポートの資格取得推奨
- ※従来の「DX人材」の目指す姿について見直しを考えている。「AIに的確な指示を出し、業務で使いこなす」という能力が必要。それに応じて育成方針も変えていく
AI導入リーダーとしての心がけ・気づき
◾推進上の課題とアプローチ
- 現場において導入効果を実感できるような評価指標の設定は課題。例えば、代理店さんからの照会応答に関する入電が半減したとしても、必ずしも実感を伴った業務量の減少に繋がっていないと感じている
- AI活用による将来像をナラティブに未来像として語りつつ、「今」の数字で課題を認識してもらい、実際の行動を促す。こうしたビジョンとKPIの往復でムーブメントを創出することが求められる
- 人事制度、営業体制、代理店システムの改革など、様々なプロジェクトを横断し、全社視点でAI施策をビルトインすることが必要
- 全社を俯瞰する経験と視点、社内人脈を駆使した支援者拡大がカギ
Interviewee
牧原 卓也 / Takuya Makihara
東京海上日動火災保険 CX・dX推進部長
1996年、東京海上火災保険株式会社入社。
京都中央支店、経済産業省出向、経営企画、労働組合専従、東京新都心支店、滋賀支店(支社長)、あんしん生命出向(営業企画・デジタル戦略)を経て、2024年より現職。
