pagetop
AIガバナンスの論点2025バナー

普及促進から付加価値創出フェーズへ

三井不動産
山根隆行 DX本部 グループ長に聞く

AIガバナンスを巡る論点2025 #12
<最前線> 企業のAI利活用

OpenAIの生成AI「ChatGPT」が2022年11月にリリースされてから3年が経過した。日本の企業・組織における導入・利活用はどこまで進んでいるのか、今後の課題は何か――。AIガバナンスを巡る論点をあぶり出すシリーズ第12回は、山根 隆行 三井不動産DX本部DX四部DXグループ グループ長へのヒアリングの骨子を凝縮してお伝えする。(聞き手は、菊池尚人 デジタル政策フォーラム 代表幹事代理/慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 特任教授)

山根 隆行山根 隆行 三井不動産 DX本部 DX四部 DXグループ長

AI利活用の現状

「生成AI利活用を全社に広げていくため、社内85部門すべてに対して「AI推進リーダー」を一人ずつ出してほしいと依頼したところ、あっという間に約150名が集まりました。AI利活用に対する現場の興味関心の高さを実感しました。DX本部と現場が一緒に取り組むことで、血の通った業務変革につなげていきます」(山根隆行 DXグループ長)

生成AI導入のステップ: 助走から本格利用へ

  • 2023年にAIチャットツール(Azure OpenAIベース)を内製し、社員向けに提供。文書作成・校正・調査などの業務効率化から開始
  • 2025年10月、ChatGPT Enterpriseを全社員が利用できる環境を全社共通AI基盤として整備。「カスタムGPT」により、部門や業務ごとのルールやマニュアルを組み込んだRAG(Retrieval-Augmented Generation)拡張により社内専用アシスタントの作成・共有が可能に(利用開始から約3カ月で約500件のカスタムGPTを運用)
  • 社員一人ひとりの業務効率化(全体底上げ)と、業務ごとのプロセス変革と高度化のからアプローチ。業務時間10%以上の削減を目指す

施策と組織

  • AIチャットツール導入時に全社員に研修を実施し、ChatGPT活用のための基本スキルを定着。ChatGPT Enterprise導入時にも全社員対象に研修を実施
  • 2025年4月、DX本部内にAIとデータに特化したDX四部を新設。DX推進体制の中に生成AI活用とデータ活用の司令塔をビルトイン(三井不動産グループ DX白書2025-2026
  • 2025年11月、全社85部門すべてから約150名のAI推進リーダーを選出。集中的な勉強会ののち、草の根的・自走的な利活用の現場リーダーとして活躍中
  • これまでの歩み 出所:三井不動産グループ DX白書2025-2026出所:三井不動産グループ DX白書2025-2026

代表的ユースケース

【三井ホーム】

  • 営業ナレッジを言語化し、組織全体で共有・再現できる「営業支援生成AI」を構築。AIエージェントを通じて誰もが知見を引き出せる環境を整え、住宅提案の属人化を解消
  • 顧客データと営業ナレッジを組み合わせることで、顧客一人ひとりの特徴やニーズ、状況に応じたアプローチ方針の立案が可能に
  • 2026年度に本格運用開始見込み

【三井不動産レジデンシャルサービス】

  • フロントマネージャー約600人に対して「マンション管理業務支援AI」を構築・提供
  • マンション管理組合の理事会や総会を支援するための資料作成や議事録作成の自動化などによって大幅な効率化を図る。フロントマネージャーの能力(担当案件数)の拡張、サービス品質の向上を目指す
  • 2026年度に本格運用開始見込み

「社長AIエージェント」により経営陣自らが旗振り

  • 2025年12月に、「社長AIエージェント」の全社利用を開始(三井不動産 | 社長AIエージェントなど独自AI開発と、全部門で150名のAI推進リーダーを設置
  • 植田俊 社長の公開情報や経歴、過去の発信内容、個人的なエピソードなどを取り込み、社長の「ものの見方・考え方」を立体的に再現したAIエージェント。中期経営計画などの経営情報も反映
  • 社員が社長AIエージェントと対話することを通して市場環境、全社戦略、経営方針についての理解を深めてもらう。「経営と現場をつなぐ新たな基盤」を目指す
  • 2025年10月には、DX本部内で「DX本部長AIエージェント」を利用開始。本部長向け説明資料の事前レビューによって本部長意向との不整合による手戻りが減少し、DX 本部員の資料作成・修正にかかる時間を平均約30%削減
  • AI伴走による仕事の変革 出所:三井不動産グループ DX白書2025-2026出所:三井不動産グループ DX白書2025-2026

AI導入リーダーとしての心がけ・気づき

「2026年度からはAIの投資対効果(ROI)をしっかり見ていく段階に入ります。ただ、一方では、短期的なROIだけに固執し過ぎないことも大切であると感じています。AIは非常に速いペースで進化・発展しているので、その流れにきちんと乗っていること、AIを業務プロセスの中にきっちり入れ込んでいくこと、AIの変化にしっかり食らいついていくことが一番大事だと思っています」(山根隆行 DXグループ長)

部門ごとにサイロ化したデータの統合が課題

  • 事業部門ごとにデータがサイロ化している、AIで活用するのに十分なデータが整っていない、といった課題がある状況。生成AIの利活用で当社ならではの付加価値を生み出していくためには、AIが必要としているデータを十分に活用できる環境の整備が必要になってくる
  • 新設されたDX四部で取り組みを開始している
  • データ統合による顧客価値や利益創出の実効性、投資対効果の見極めが重要

普及促進から付加価値創出へ

  • 全社員の月間利用率80%を目指しつつ、エージェント型AIによる業務プロセス変革、利益創出を進めていく。2026年度の焦点は「全社普及促進」から「付加価値創出」にシフトへ
  • 何らかの利益貢献KPIを設定することになるだろうが、あまり固執しすぎると大胆な発想・挑戦にブレーキをかけることになりかねない。適切なKPI設定が大切
  • 不動産デベロッパーのビジネスモデル(用地取得→開発→運営)を根幹から変革するというところまでは、少なくとも現時点では想定していない
  • エージェント型AIの活用が本格化すると、ハルシネーションのリスク、著作権侵害のリスク、セキュリティリスクなどが顕在化してくると見られる。利活用促進と並行してガバナンス体制の整備・強化を進める
  • 文系出身者が多い組織だが生成AIに関しては現場からの反応がとても良い。自然言語UIの分かりやすさ、取っつきやすさが大きい。部門を超えた横の連携も活性化している。こうした現場コミュニティの力を最大限に活用することが収益化フェーズにおいても重要なカギとなる

Interviewee

山根 隆行 / Takayuki Yamane

三井不動産 DX本部 DX四部 DXグループ グループ長

KDDI、旭化成などを経て、2023年に三井不動産へ入社。DX人材育成制度の企画推進を担当した後、2025年4月より現職。