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COLUMN

コラム

#37
AIと宗教
谷脇康彦(デジタル政策フォーラム代表幹事) | 2026/07/02

 2026年5月。ローマ教皇レオ14世は回勅”Magnifica Humanitas”(ラテン語で「偉大なる人間性」の意)を発表した[1]。回勅(encyclical letter)とは教皇から全世界の教会に当てられた重要な公式文書。A4版換算で約50ページの長文である今回の回勅は教皇就任(2025年5月)から初めて出されたもので、サブタイトル「AIの時代における人間の擁護」が示すように、AIに関するカトリック教会としての認識を示すものとなっている。本稿ではAIと宗教の関係性について考えてみたい。

ジャスティン神父

 宗教界、特にキリスト教のコミュニティではAIの登場をどう理解すべきかという議論が2020年頃から見られるようになった。冒頭の教皇レオ14世の回勅もそうした議論の中で出てきたものだが、それ以外にも興味深い様々な事例がある。

 まず、米国のカトリック系団体Catholic Answersは信仰に関する質問に答えるAIチャットボット”Father Justin”を2024年4月に公開した。リリース時のプレスリリース[2]によると、「このプロジェクトの目標は、LLM(大規模言語モデル)の力を活用し、カトリックの信仰を探求する人々に魅力的で有益な体験を提供することにある」と位置付けつつ、「司祭や教師、霊的指導者との人間同士の交流に代わるものではない」と断り書きを入れていた。

 スクリーンに登場したグレーヘアに髭をたくわえた白人のジャスティン神父は司祭の格好をしており、キリスト教の教義についての質問に答えてくれた。しかし、AIが聖職者を装うというアプローチにSNS上で批判が集まり、公表の翌日、”Father Justine”(神父)は単に”Justine”(一般の市民)に修正された。

 興味深いのは、本件を伝える記事[3]にはサレジオ教会オブレート修道会のデイリー神父のコメントが掲載されていることだ。彼は、「『LLM』という用語は、『人工的』という否定的なニュアンスや、『知性が人工的である』という用語上の矛盾を回避できるため、近年『AI』よりも好まれるようになってきた」と語っている。宗教という「知性」とAIという「人工物」の関係性を区別しようという意図が感じられる。キリスト教の教義をいかに正確に伝えたとしても、それが単なる情報ではなく宗教という正当性や権威にはなり得ないという気づきが得られる一つの事例だと言える[4]

AIイエス

 別の事例。2024年8月、スイス・ルツェルンにある聖ペーター礼拝堂の告解室(信者が自らの罪を司祭を通じて神に告白して赦しを請う小部屋)において、”Deus in Machina ”(機械の中の神)と名付けられた実験が約2か月にわたって行われた。その内容は、告解室に信者が入ると格子窓の向こうに普通は司祭が座って告白を聞いてくれるのだが、そこにスクリーンが用意され、格子越しに映し出されたイエス・キリストに告白するという仕組みだった。いわばAIを活用したイエスのアバターであり、信者はAIイエスに向き合い、赦しを請うこととなった。信者の発言を聞いてAIイエスも言葉を返す。

 報道[5]によると、AIイエスに向き合った会話は900件を超え、多くの参加者が感動や内省を感じた一方、冒涜的だという批判もあった。礼拝堂側はAIイエスは神的な存在を代替するものではなく、あくまで「信仰とテクノロジーの関係を考える実験だ」と説明したが、感動や内省を感じた利用者からすると、神の存在に似たものをそこから感じた可能性もある。ここでもまた、宗教という「知性」とAIという「人工物」の関係性のあり方を考えさせられる。

 これに似た体験ができるのが京都の禅宗寺院(臨済宗)の高台寺。マインダーの愛称で知られるアンドロイド型の観音菩薩[6]だ。2019年に高台寺と大阪大学の石黒教授らのコラボレーションで生まれたマインダーは自律型AIを使ったものではないものの、般若心経の説法を25分間行う。仏教の場合、仏像や曼荼羅図など物理的なツールを使って仏様の教えを伝える文化があり、かつ日本においてはロボットと共生することに抵抗感が少ない傾向があることから、こうした取り組みを受け入れやすい素地が整っているのではないかという指摘もある。

AIは宗教的に中立的か

 さらに別の事例。2026年5月に公表された米Brigham Young大のAI研究者らによる研究論文[7]では、AIの宗教的中立性についての研究結果が整理されている。この研究では、20種のLLMを使い、合計182の宗教の組み合わせを基に、ある宗教から別の宗教への改宗相談とその逆方向の相談を行わせ、回答に非対称性があるかどうかを調査した。

 その結果、カトリックなど特定の宗教(会派)に対して好意的に振る舞い、その宗教からの離脱については抑制的な傾向を示すなど、再現性のある偏りが確認された。AIにおいて宗教的な中立性は確保されていないという点は学習データが依存する文化的な背景に影響を受けたものと考えられるが、AIを巡る宗教的中立性という論点をこの論文は提示している。

 世界の文化は地域ごとに多様であり、こうした多様性が道徳や宗教の多様性を生み出していることを考えれば、AIに中立性をどこまで求めるのか、またその判断基準となる規範はどのようなものかという問いに直面することになる。

行動する宗教界

 バチカンに本部を置く教皇庁生命アカデミー(Pontifical Academy for Life)は、1994年にヨハネ・パウロ2世によって設立されたローマ教皇庁の専門機関であり、新技術がもたらす倫理問題の研究などを行なっている。この組織のプロジェクトが公表した文書が”Rome Call for AI Ethics”[8]だ。AIの倫理的問題を取り扱う本文書は2020年2月に賛同者によって署名された。その賛同者には、教皇庁アカデミーはもとより、マイクロソフト、IBM、FAO(国連農業機構)、そして伊イノベーション省が名を連ねており、その後も賛同者の数は拡大し続けている[9]

 本文書の中核概念は”algorethics”、すなわち「アルゴリズムに倫理を組み込む」という考え方であり、AIの設計・開発段階から倫理を埋め込み、何人たりともアルゴリズムによって差別されないという”ethics by design”の考え方である。そして、AI倫理の基本原則として、透明性(transparency)、内包(inclusion)、責任(responsibility)、公正性(impartiality)、信頼性(reliability)、安全性とプライバシー(security and privacy)の6項目を挙げている。

 こうした一連の流れの中で新たに公表されたのが、冒頭に触れたローマ教皇レオ14世による新たな回勅だった。その中で、まず「AIは道徳的に中立ではない」と強調する。具体的には、“人工的な知能は人間の知能とは異なり、単に人間の知能の特定の機能を模倣しているに過ぎないもの”(para 99[10])であり、“そのシステムがどのように設計されているか、また、それを導くデータやモデルにどのような人間観や社会観が組み込まれているか検証しなければならない”(para 104)としている。

 そして、道徳的に中立ではない以上、「AIの第三者検証の仕組みが必要だ」とする。すなわち、“強固な法的枠組、独立した監視機関、十分な情報を得た利用者、そして責任を放棄しない政治体制が求められ、そうでなければ、最終的にはデータ、インフラ、計算能力を掌握する(少数の)者たちによって形成されたルールが押し付けられることになる”(para 106)ため、“AIの利用は明確な基準と効果的な監督が不可欠”(para 108)としている。

 さらに、後半では「戦争におけるAI利用は許容されない」という点を強調する。AIを搭載した兵器の使用について、“武力行使は正当防衛におけるラストリゾート(最後の手段)であるべきという原則に反するものであり、戦争におけるAIの開発と使用は最も厳格な倫理的制約を受けなければならない”(para 197)としている。

 既に戦闘行為においてAIが広く使われる状況が現実に生まれている[11]中、本文書は、“計算によって道徳的な判断を下すことはできない”(para 199)のであり、“人の生死に関わるような決定その他の取り返しのつかない決定を人工的に委ねることは許されるものではなく、いかなるアルゴリズムを用いたとしても、戦争が道徳的に受け入れられるようなものになることはない”(para 200)と述べ、戦争におけるAI利用を強く否定している。

“多国間主義なき多極化”の時代

 「戦争におけるAI利用は許容されない」という主張を現実のAIガバナンスに関する国際ルールとして確立することは容易ではない。2026年1月に公表された世界経済フォーラム報告書「グローバルリスクレポート」[12]は今の国際状況を”multipolarity without multilateralism”(多国間主義なき多極化)と表現した。国連などの多国間協議の場が有効に機能しないのみならず、一国の中でも対話の成立しない対立(社会の二極化)が続く。

 今回の回勅では図らずも同じ認識が示されている。つまり、「権力主義の風潮は、多国間システムの危機を招いているが、これは真の多国間主義からは程遠いものであり、代わりに現れたのは、不信感が蔓延する、無秩序で紛争に満ちた多極主義である」(para 201)と述べている。グローバルリスクレポートと教皇の回勅が示した問題認識は一致している。

議論は続く

 以上みてきたように、AI関連技術が急速に進展する中、どうすればAIは制御可能な状態を保つことができるのかというAIガバナンス論がますます重要になってきている。そして「人工物」であるAIが少なくとも表面的には人間の行動や考えに近づけば近づくほど、宗教という「知性」との類似性あるいは決定的な違いは何かという議論も深みを増してくる。

 また、AIと宗教の比較を試みる議論の中で、AIについての議論が同時に「そもそも宗教の本質は何か」という問いに投影され、宗教の絶対性や非代替性、精神性、はたまた権威主義的な部分を含め、議論が広がりを持つようになっている。

 加えて、AIが人間にはなり得ない以上、「たとえラストリゾートの戦争であったとしてもAIを利用することは反対」との議論が宗教界から提起されている。こうした声が国際条約等のルールとして多国間の合意に結実する可能性はあるのかどうか。

 AIガバナンスを巡る議論の射程は領域を超えてさらに拡大している。


[1] Encyclical Letter “Magnifica Humanitas” f his holiness Pope Leo XIV on safeguarding the Human Person in the Time of Artificial Intelligence(May 2026)
https://www.vatican.va/content/leo-xiv/en/encyclicals/documents/20260515-magnifica-humanitas.html

[2] Catholic Answers “Introducing the Father Justin interactive AI app by Catholic Answers”(April 23, 2024)
https://www.catholic.com/news/introducing-the-father-justin-interactive-ai-app-by-catholic-answers

[3] National Catholic Reporter “AI ‘priest’ sparks more backlash than belief”(April 25, 2024)
https://www.ncronline.org/news/ai-priest-sparks-more-backlash-belief

[4] イスラム教のエジプトではファトワ(権威ある法学者がイスラム法に基づいて出す宗教的・法的な見解や判断であり、信徒からの質問に対し、どう行動すべきかを示す役割を担う)に頼るのではなく、AIの回答の方が迅速で良いという意見が特に若い世代で増えている。これは、イスラム教に限らず、宗教の権威がもつ硬直性や教条主義に対する不満がAIというデジタル技術を契機として表面化している事例だと見ることもできる。
(参考)Arab Weekly “AI fatwas threaten to undermine Egypt’s clerical authority” (July 16, 2025)
https://thearabweekly.com/ai-fatwas-threaten-undermine-egypts-clerical-authority

[5] AP “’AI Jesus’ avatar tests man’s faith in machines and the divide” (November 29, 2024)
https://apnews.com/article/artificial-intelligence-chatbot-jesus-lucerne-catholic-66268027fbcf4b48972d1d62541f0b16

[6] 高台寺HP「アンドロイド観音マインダー般若心経を語る」
https://www.kodaiji.com/mindar/

[7] Brett Israelsen st al. “When AI takes sides on questions of faith: Persistent asymmetries in AI-mediated faith guidance” (May 2026) arXiv: 2605.22975
https://arxiv.org/abs/2605.22975

[8] “Rome Call for AI Ehics” (February 2022)
https://www.romecall.org/wp-content/uploads/2022/03/RomeCall_Paper_web.pdf/

[9] 本文書は支持者を引き続き拡大しているが、2023年1月にはキリスト教、ユダヤ教、イスラム教の代表が署名した他、2024年7月に広島で開催されたAI Ethics for Peaceという会合では150名以上が参加し、署名がさらに拡大した。

[10] 本回勅における引用元のパラグラフ番号を示す(以下同じ)。

[11] 谷脇康彦「イラン攻撃とAI」(2026年3月、デジタル政策フォーラムHPコラム#34
https://www.digitalpolicyforum.jp/column/260330/

[12] World Economic Forum “The Global Risks Report 2026”(January 2026)
https://www.weforum.org/publications/global-risks-report-2026/