コラム
最近、ワット・ビット連携という言葉をよく見かけるようになってきた。本稿ではデータセンターの領域におけるワット(電力)・ビット(情報通信)連携の狙いについて、集中と分散という切り口から俯瞰してみたい。
コンピュータ、そしてAIにおける集中と分散
コンピューターの歴史は、メインフレームと呼ばれる大型電子計算機の時代から始まる。インテリジェンス(頭脳)は中央にあり、そこに接続された端末を介して共同利用していた。しかしパソコンが登場すると、その普及にあわせてインテリジェンスの分散が進んだ。その後、仮想化技術や並列分散処理技術を使ったクラウドの登場により再度インテリジェンスの集中が起こり、世界各地にデータセンターを作る動きは一層活発になってきている。そして、近年はクラウド利用がさらに普及すると同時にエッジコンピューティングが登場し、インテリジェンスの分散も大きな潮流となっている。
このように、コンピューターの世界において集中と分散は繰り返されてきた。ただし、集中と分散は対立する概念ではない。技術革新やこれに伴うコスト構造の変化、運用・管理技術の進化、多様な利用者ニーズなどを踏まえながら、集中と分散の間で時々の最適点(ベストミックス)が選ばれてきた。
急速に進化するAIの領域でも、今後は集中と分散の2つの方向性が出てくる。現在広く利用されている生成AIは膨大な学習データを元にLLM(大規模言語モデル)を構築する集中型AIが主流だが、今後AIとAIがネットワークで接続されて相互運用性が確保されたネットワークAIが登場して、分散型AIとして機能していくものと見込まれる。例えば、いろんな専門領域や事業領域ごとに構築された小規模AI(SLM)がネットワークを介してつながり、仮想的に一つの大規模なAIのように機能することも考えられるだろう。
小規模AIの可能性については、話題のClaude Mythosをオープンソースで再構築したOpenMythos[1](繰り返し推論により思考の深さ”reasoning depth”を出すといった特徴)など、小型AIの可能性を模索する動きも多数登場するようになってきている。
ワット・ビット連携
電力とデータセンターの分散型連携、いわゆるワット・ビット連携もこうした集中と分散のベストミックスの文脈で考えることができる。
これまでのハイパースケーラー型のデータセンターは、図の第一象限にある電源・DC集中型の状況である。日本のデータセンターは大都市である東京や大阪の周辺に約9割が集中しているが、敷地の確保や電力の融通に困難を伴う。特に大規模送電設備の設置など電力供給関連施設の整備には数年を要する案件も多い。
そこでデータセンターを小型化して地方に分散配置することを考えてみる(第三象限の分散型)。この場合、データセンターの敷地の確保は都市部より容易であり、電力需給のミスマッチを解消することも可能になる。データセンターに対して再生可能エネルギーを供給するなどの選択肢も現実的だ。分散データセンターを複数配置しネットワークで接続することにより、冗長性を向上させることも可能になる。分散データセンターを分散AIとみれば、AI利用者からの距離が近いことから伝送遅延が少なくなり、自動運転や遠隔医療にAIを使うようなケースにおいても信頼性が強化される。さらに分散AIを電力等の送配電に活用することでエネルギー需給の最適化にも貢献可能となる。
もちろん集中型データセンター(AI)ではLLMの学習を行い、地方の分散型データセンター(AI)では推論だけを行う役割分担を行い、前者と後者の間はオール光網(通信)と地域間連携線(電力)で結んで一体的な運用を確保することもできる。
ワット・ビット連携に似たアプローチは少し形を変えて中国の関連プロジェクト「東数西算」でも見られる。これはデータセンターの“東高西低”を是正し、東部の沿岸地域で生み出される膨大なデータ(東数)を、エネルギーが豊富でコストの低い内陸部に送ってデータセンターで処理(西算)するプロジェクトで、2022年2月に開始されている[2]。「東数西算」は、「南水北調」(南部の水を北部に送る)、「西電東送」(西部の電気を東部に送る)、「西気東輸」(西部の天然ガスを東部に送る)など、過去実施された国内に偏在する資源を全国に供給するための国家プロジェクトに並ぶものとなっている。
領域を越えるワット・ビット連携
以上見てきたように、ワット・ビット連携は電力と通信が緊密に連携することで集中と分散のベストミックスを形成するプロジェクトである。集中と分散をバランスさせることで効率性と冗長性の均衡、中央と地域の柔軟な役割分担、地域資源の活用と地域活性化といった複数の政策目的を実現することが可能になっていくことが期待される。
[1] Craig S. Smith 「22歳の開発者が”Claude Mythos”を推定・構築、公開プロジェクト”OpenMythos”開始」(Forbs Japan, 2026年5月5日)
https://forbesjapan.com/articles/detail/96827
[2] ETRO「全国一体のコンピューティングネットワーク発展計画”東数西算”プロジェクトが本格稼働」(ビジネス短信、2022年3月2日)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/03/559dbd7613689884.html