コラム

#18 ニュースプラットフォームに対抗する国内マスメディア、流通構造は変わるか
新志有裕(ジャーナリスト・弁護士ドットコムニュース編集長)

2022年8月26日

日本国内のネットニュースが流通するプラットフォームの中では、ヤフーニュースがPVや影響力の観点から「巨人」として存在しているが、その対抗策として、興味深い動きが出ている。

公正取引委員会が6月、ヤフーなどの巨大IT企業が運営するニュースサイトへの記事配信契約をめぐって、報道機関が共同で取引条件の交渉をすることは可能だとする見解を示した。

各種報道によると、ヤフーから受け取る配信料を共同で決めることは認められないが、収益についての情報開示を求めることや、契約書の書式統一といった形での連携は独禁法上の問題はないという。

これは、新聞社が公取委に相談した結果、出てきたものだが、またせめぎあいが始まるか、といった印象だ。新聞社はネットニュースへの参入がはじまった1990年代から、ヤフーニュースに出すか出さないかの微妙な関係性が続いてきたからだ。何度も対抗軸が生まれようとしては、消えていった(例えば、2008年の朝日、日経、読売の3社共同読み比べサイト「あらたにす」など)。

筆者も新聞社やネットメディアの関係者から、「もっとヤフーニュースに物申すべきだ」という声を何度も聞いたことがあるし、当のヤフーの関係者からも、「媒体社同士が連帯して要求を始めてみたら、ヤフーにとってもいい刺激になるんじゃないか」という声を聞いたことがある

プラットフォームをめぐる議論については、GAFAMなどのグローバルプラットフォームと日本国内の法人や個人との関係が問題になることが多いが、「日本語の壁」や「日本という地域性の壁」に守られた国内ニュースの分野では、ヤフーやLINE(Zホールディングスという点ではヤフーと同系統)、スマートニュースなど国内プラットフォー厶と、国内の媒体社との力関係が問題になってくる。同じ国内同士で、顔の見える関係だからこその生々しさもある。公取委の見解を受けて、一定の緊張感が漂うかもしれない。

また、プラットフォームにおけるニュースの掲出については、ヤフーニューストピックス(通称ヤフトピ)のように人力で選ばれるものが影響力を一定程度維持しつつも、多くはアルゴリズムによって自動的にレコメンドされる部分が大きくなっている。自身の属性や閲覧履歴などのデータを解析することによって、どんなニュースが掲出されるのかが変わってくる。例えば、エンタメニュースばかり見ていると、タイムラインはエンタメニュースだらけになる。

しかし、媒体社側からするとアルゴリズムには不透明な部分が多く、どうすれば多くのPVが取れるのかはわかりづらい。昨今、「食べログ」裁判の地裁判決でアルゴリズム変更が問題になったように、生殺与奪の権をプラットフォームのアルゴリズムに握らせるな、ということで、ニュースの分野でも何らかの動きが出てくるかもしれない。

筆者は、国内のマス向けニュースプラットフォームや媒体社(ニッチ層向けプラットフォームの戦略はとても興味深いのでいずれまた論じたい)としては、無数の媒体社を実質的に配下に置くヤフーニュースと、受信料収入を基盤とした公共放送としての強さがあるNHK、ビジネスメディアとして収益基盤の強固な日本経済新聞の三者に「究極的には」収斂されていくと考えている。

ヤフーニュースについては、ヤフーが自前で揃えるようになった多数のコンテンツ(独自に声をかけた書き手やコメンテーターなどによるコンテンツ)と、たくさんの新聞やテレビ、ネットメディアなどの「外様大名」のコンテンツがひしめきあう「幕府」みたいなものとして続いていくことになるだろう。

その内部での力関係が今後変わるならば、とても興味深いことだが、ここまで大きくなったニュースのプラットフォーム(特にヤフーニュース)とその配下にいるという構造が変わらない限り、大きな変化はないかもしれない。

だからこそ、今後の国内ニュースのあり方を考えるうえでは、ヤフーニュースだけでなく、もう一人の巨人であるNHKのネット展開がどうなるのかも重要になってくる。このNHKのネット展開でも新聞社が牽制を続けているという構造があるのが興味深い。 いずれにせよ、力関係だけで物事が動き続けるのならば、ユーザーに本当に必要なニュース(仮にそれを一番望んでいなかったとしても)を届ける、ということにはつながらない可能性が高いので、プレーヤー間の構造を理解しつつ、どんな情報をどう流せばいいのか、という、業界横断的な大きな絵を描くことが求められているのではないだろうか。

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