#9 安心・安全なインターネットの利用環境に向けて
小川久仁子( 総務省総合通信基盤局電気通信事業部 消費者行政第二課長)
2022年4月1日
インターネットは私たちの日常生活に不可欠な社会経済基盤となっており、新型コロナウィルス感染症への対策や新たな生活様式の中で、デジタルシフトが進んでいます。スマートフォンやIoT等を通じた情報流通及びAIを活用したデータ解析が進み、全てのものがインターネットにつながる動きも今後Society5.0へ向けて加速すると考えられます。このような中で、今後のデジタル政策を考えていく上で、日本の利用者が安心安全にインターネットを利用できる環境を確保していく、という視点は重要だと思われます。
第一に、利用者は電気通信サービスを通じてインターネットを利用しています。2021年度末までにFTTHの世帯カバー率は99.7%、モバイルブロードバンドの人口カバー率も99.9%、将来的なBeyond5Gの国際標準化に向けた議論が行われるなどインフラ面での対応が進んでいます。このインフラを通じて提供される多様な電気通信サービスの信頼性、適正な料金水準や消費者保護を確保していくことが必要であり、情報の取扱いを含めたガバナンス確保も重要になります。
第二に、スマートフォンやIoT等を通じて、様々なヒト・モノ・組織がインターネットにつながり、膨大なデジタルデータの生成・集積が飛躍的に進展し、AIによるデータ解析などを駆使した結果が現実社会にフィードバックされるようになってきています。その中で、例えば、ターゲティングやレコメンドが利用者へ与える影響やこれにどのように利用者が関わっていくかという論点が考えられます。従来から、利用者情報の取扱いについては、スマートフォン プライバシー イニシアティブ(SPI)[1]や業界団体による自主的取組なども進められてきています。プラットフォーム事業者等が情報の取扱いにおいて大きな存在感を持っており、利用者情報の適切な取扱いに関する状況を継続的にモニタリングしていくことも重要です。これからも、個人情報保護法や電気通信事業法等においても、連携しながら対応が検討されていく必要があると思われます。
第三に、利用者にとって情報空間としてのインターネットの重要性が高まっていることを踏まえ、表現の自由や通信の秘密を守りながら、インターネット上の違法有害情報の流通の問題についても対応を進めていくことが重要です。そのためには、関係者が連携した総合的な対策が必要になります。例えば、インターネット上の誹謗中傷が深刻な社会問題となっていることを踏まえ、「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」を総務省は発表し、①情報モラル及びICTリテラシーの向上のための啓発、②プラットフォーム事業者による透明性とアカウンタビリティの向上、③発信者情報開示に関する取組、④相談対応の充実に向けた連携と体制整備の4つの柱からなる総合的対策を関係省庁や産学民のステークホルダーとして連携しながら進めています。情報流通の中で重要な位置づけを有するプラットフォーム上において違法有害情報(誹謗中傷やフェイクニュース・偽情報等)に対してコンテンツモデレーションやアーキテクチャー上の工夫も含めた取組みが適切に行われるよう、プラットフォーム事業者等による取組みの透明性・アカウンタビリティを継続的なモニタリング等を通じて確保していくことは重要な論点[2]です。
これらの論点へ対応する政策を検討していく際には、ダイナミックにイノベーションが進む分野でもあることを十分に考慮し、官民共同規制により、民間事業者や事業者団体等の自主的ルールやガバナンス、ベストプラクティスの推進と官側の制度整備やモニタリングの連携が図られることが重要と思われます。
また、多くの課題はグローバルに共有されるものであり、域外適用の実効性を確保していくとともに、日本からイニシアティブを取り政策を発信していくことにより諸外国と政策連携や調和に向けた活動を進めることも重要です。
そして、中長期的に情報通信技術やサービス進展によるイノベーションが社会に受け入れられていくために、利用者の立場から人間中心のものとなるようにデザインされ、利用者の信頼を得ていくことが重要であるように思います。
横断的に様々な立場の方々が参加されるデジタル政策フォーラム(DPFJ)は議論の機会として貴重であり、産学官民連携した形で、自由でオープンで安心安全なインターネットの利用環境の確保やデジタル技術の利用に向けた知恵の集積、相互理解・共通認識の形成の場となっていくことを期待します。
[1] 「スマートフォン プライバシー イニシアティブ」(SPI)(2012年8月)・SPI Ⅱ(2013年9月)・SPI Ⅲ(2017年7月)が発表されており、SPI及びSPIⅡの内容を踏まえ、スマートフォン・アプリにおける利用者情報の現況などが「スマートフォン プライバシー アウトルック」(SPO)として2014年以降毎年公表されています。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/smartphone_privacy.html
[2] 「プラットフォームサービスに関する研究会(座長:宍戸 常寿 東京大学大学院 法学政治学研究科 教授)」において、プラットフォーム上の違法有害情報や利用者情報の適切な取扱いに関する検討結果について継続的にモニタリングが行われ公表されています。「プラットフォームサービスに関する研究会 中間とりまとめ」(2021年9月)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban18_01000128.html