コラム

#8 生活者の変化を先取りした幅広い視野での議論を期待
奥律哉(株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ統括責任者/電通総研フェロー)

2022年3月25日

 弊社は2022年2月24日(木)に「2021年 日本の広告費」を発表した。

https://www.dentsu.co.jp/news/item-cms/2022003-0224.pdf

 総広告費は、6兆7,998億円(前年比110.4%)。テレビなどのマスコミ4媒体広告費やインターネット広告費が大きく成長。なかでもインターネット広告費は2兆7,052億円(前年比121.4%)となるなど市場の伸びをけん引した。日本の広告費は、マスコミ4媒体、インターネット、プロモーションメディアの3つに区分されるが、2021年はインターネット広告費がマスコミ4媒体広告費の2兆4,538億円(108.9%)を上回ったことがトピックスとして挙げられる。新型コロナウイルス感染症の影響が緩和したことで広告市場は大きく回復したが、コロナ禍前の2019年(6兆9,381億円)を超えることはできなかった。

 時系列データを過去に遡って確認すると、総広告費は名目GDPとの関係性が大きいことがわかる。過去のトレンドではおおよそ名目GDPの約1.1%~1.2%の規模が総広告費である。しかしコロナ禍の近年ではその比率が上昇し、2021年は1.25%となった。

 コロナ禍でさらに弾みがついた社会インフラとしてのインターネットの重要性と関係していることを感じさせる。

 コロナ禍における生活者の日常行動にも大きな変化があった。リモート/在宅勤務/時差出勤やオンライン授業/分散登校などが日常化。人々の日中の在宅率(行為者率)が2020年は2019年比で大幅に増加し、2021年はその増分の約半分まで揺り戻しで減少した。在宅率上昇に伴って自宅で利用(行為者率)が拡大したメディアは、当初はテレビとモバイルインターネットだったが、2年の経過とともにテレビ利用は落ち着きモバイル利用はその勢いを維持している。在宅率上昇に伴い在宅時間の過ごし方が変化し、人々の情報取得やエンタテイメントに対する向き合い方も変化した結果だと考えられる。

 その中でも気になるのは、ティーン層の映像視聴行動である。自宅における放送波(RF)経由とインターネット(IP)経由の映像視聴時間量を比較すると、インターネット動画(テレビ、PC、タブレット、スマホ、携帯・PHS経由)の視聴シェアが、テレビ放送(テレビリアルタイム視聴とタイムシフト視聴)の視聴シェアと拮抗している。一言で言えば、「ティーン層ではRFとIPでの映像視聴時間量はほぼ互角である」ということである。(出典:ビデオリサーチ社 MCR/ex(東京50km圏)2021年6月調査)

 今後彼らが齢を重ね社会の中核を担う10~20年後には、年齢持ち上がり効果によりこの傾向を保持したままM1/F1階層(男女20~34歳)に入る。その時点のティーン層はさらに新しいサービスに親和性を持った生活者として登場することになる。

 しかし放送制度やライツ、個人情報保護、データ利活用についての議論はいまだに前述の2つ領域を区別した議論を重ねている。

 デジタル政策フォーラムの皆様とともに、生活者の変化を先取りした幅広い視野での議論ができることを期待したい。

以上

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