コラム

#4 プラットフォーマーを巡る議論を改めて考える
谷脇康彦(デジタル政策フォーラム顧問)

2022年1月14日

 ここ数年、市場支配力を持つプラットフォーマーを巡る議論が国内外で活発に行われている。そこで本稿ではプラットフォーマーの抱える課題について改めて整理して考えてみたい。その際、具体的にどのように課題解決をしていくことが考えられるのか、またそうした議論の先にどのような世界を実現しようとしているのかについても触れてみたい。

 さて、プラットフォーマーを巡る市場環境については、プラットフォーマーと利用者との間の市場Aと、プラットフォーマーと企業(広告出稿者)との間の市場Bの2つが存在する(いわゆる両面市場という考え方)。このうち、市場Aにおいては利用者データをプラットフォーマーが収集・蓄積・加工し、市場Bにおいては蓄積された利用者データ等を企業に提供しつつ広告を掲載させて収入を獲得するということが行われてきた。市場Bにおいて企業数が増加すればプラットフォームにおいて利用者のサービス等の選択の幅が広がり、より魅力的なプラットフォームにはより多くの利用者が集まり利用者データが厚みを増すという相乗効果(一種のネットワーク効果)が働くというスケーラブルなモデルだと言える。

 しかし、市場Aにおいても市場Bにおいても、市場当事者の交渉力は同等ではない。市場Aにおいて利用者は無料で自らの個人情報をプラットフォーマーに提供し、その対価として無料の各種サービスの提供を受ける。従来の考え方であれば無料で提供されている限り、消費者余剰は最大化している。あくまで競争法が射程に入れるのは市場支配力を行使して価格を競争的な市場価格以上につり上げて得べかりし消費者余剰が失われている場合に「競争上問題あり」とする。つまり、利用者が提供する個人情報の価値がプラットフォーマーの提供する無料サービスの価値を上回っている場合、従来の考え方では問題として認識されない可能性が大きい。しかも、デジタルデータは無形資産(intangible asset)として企業会計には表れないのみならず、デジタルデータはコピーをしても価値を減じることなく複数のサービスに活用されたり、個人データを連結することでより大きな価値(利用者に関する情報)を生み出す規模の経済(スケールメリット)と範囲の経済(スコープメリット)を強く働かせることができる。問題は、こうして収集された個人データをどのようにプラットフォーマーが付加価値に置き換えているかという点にある。 

 一方、市場Bでは広告主である企業が個人の属性にきめ細かく対応した個人データを活用し、より効率的に広告を掲載し、売り上げ増などにつなげようとしている。しかし、プラットフォーマーの持つ個人データは膨大であり、どの程度のデータが収集・蓄積されているかについてプラットフォーマー自身は承知しているものの企業側にはわからない。ここに情報の非対称性が存在しており、プラットフォーマー側に有利な形で広告掲載費が決定される傾向が強くなる。

 つまり、市場A、市場Bのいずれにおいても、プラットフォーマー側に超過利潤が発生し、その蓄積がネットワーク効果を通じて幾何級数的に大きくなって市場支配力をさらに高めることになっている可能性がある。そして、その背景には無料サービスの提供、データという無形資産の市場価値の不明確性、越境が容易で複数のサービスをバンドルしやすいことによる事業モデルのスケーラビリティといった、プラットフォーマーならではの事業特性が大きく反映されている。

 こうしたプラットフォーマーの市場支配力を判断していく上で、前述のとおり、利用者向けサービスの意図的な料金つり上げといったことは起きていないのであれば、外形的な市場支配力の認定は難しい。しかも、収集したデータ(いわば原材料)を単独または複数のサービスにどのように活用しているのかといったプロセスが公開されていないことため、計量的にプラットフォーマーの市場支配力の有無を判断することは難しい。

 英国ユニバーシティシティカレッジ(UCL)が2021年12月に発表した報告書(参考文献(1))はこの問題に情報開示の観点から対応を迫っている。具体的には現行の有価証券報告書(10―K)はモノの生産を前提に組み立てられていて、データビジネスには対応できていない。そこで「月間アクティブユーザー数(MAU)」、「利用者エンゲージメント」、「顧客獲得費用(CAC)」、「顧客生涯費用(LTV)」などの指標の公開を求めてはどうかというもの。単なるユーザー数ではなく個人データの収集に利用者が貢献しプラットフォーマーにより多くの価値を提供しようとしているかという指標だということができるだろう。報告書では、事業部門の在り方についても提言している。プラットフォーマーのサービスは往々にしてバンドル化されており、ひとつのサービスが巨大なものであっても他のサービスとまとめて収益などが計上されている事例が多い。そこで、プラットフォーマーのビジネスの透明性を確保するため、一定規模以上の利用者数(MAU)または収益を計上する事業は独立して収支を計上するとともに、利用者データをどのように用いて収益性のあるサービスを提供しているのかという仕組み・プロセスを公開する(説明責任を果たす)仕組みを導入してはどうかという提案をしている。

 こうしたプラットフォーマーの市場独占性を計量的に把握できる情報開示のしくみが実現すれば、市場支配力の認定を受けたプラットフォーマーの機能分離(異なるサービス間の個人データの相互利用の制限や、競争事業者に適切な対価を支払うことを条件に同等条件でのデータ利用を認めること)や、場合によっては事業体の構造分離をおこなうことも視野に入るかも知れない。

 こうした議論は将来のネットの在り方とも関連してくる。現在、web3と呼ばれる次世代インターネットを巡る議論がある。インターネットはもともと自律・分散・協調を基本精神とするものだが、現在の第二期(web2)ではプラットフォーマーに富が集中し、その富が再度投資に向かうことでスパイラルな富の集中(分配の不公平)がさらに加速している状況にある。前半で触れたようなプラットフォーマー改革が進んだとして、次の世界(web3)はどのような世界になるだろうか。コンピューター資源についてはメインフレームの時代からオフコンの時代、さらにクラウドの時代へと、集中から分散、さらに集中と変化してきた。しかし今日、IoTが社会インフラとして組み込まれていくことが見込まれるが、おそらくクラウドとエッジの併存による最適化が進んでいくだろう。これに対し、コンピューター資源で構成されるネットワークの上で流通するデータについてはプラットフォーマーによる集中管理の時代を脱却し、個人が自分のデータの証跡を管理し続けることができる分散台帳技術(ブロックチェーン技術)、量子暗号通信、個々人やデータなどの信頼性を担保するトラストフレームワークの構築等を通じ、分散型のデータ管理の時代に向かっていくのではないだろうか。今、プラットフォームの抱える課題解決に関する議論のその先を見据え、次の時代のインターネットの在り方について国際的な議論や認識共有を進めていくことが強く求められている。

参考文献

(1) University City College (UCL), “Crouching Tiger, hidden dragons : How 10-K disclosure rules help Big Tech conceal market power and expand platform dominance、”December 2021

(2) ラナ・フォルーハー、「テック大手広く収益開示を」2021年12月24日、日本経済新聞7面

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