コラム

#1 デジタル政策フォーラムの議論に寄せて
谷脇康彦(デジタル政策フォーラム顧問)

2021年12月17日

 デジタル政策フォーラムが議論の射程とするデジタル技術は、広く社会経済システム全体の基盤となりつつある。デジタル技術は効率化や高付加価値化だけでなく、社会経済システムの血液である「データ」の生成・流通・蓄積・活用を通じて社会の抱える課題を解決するものであり、暮らしや産業だけでなく、政治や社会のあり方をも変えていく力を持ち始めている。このため、従来の情報通信コミュニティに閉じて議論するのではなく、幅広い領域のステークホルダーを巻き込みながら、デジタル技術のあり方(デジタル政策)を巡る議論を進めていく必要がある。

 同様に、従来は別個のものと捉えられていた領域(システム)の境界がデジタル技術によって急速に消失し、新たな対立や連携を生み出そうとしている。こうした動きは制度の見直しにも直結する。通信と放送の境界、ハード(モノづくり)とソフト(サービスづくり)の境界、レイヤー間の境界といったものが一気に失われ、境界を超えたデータ流通が進む。行政・医療・教育といった個別の領域内にデータ流通が止まるのではなく、境界を超えたデータ連携が進み、あたかも一つの仮想システムのように機能する”system of systems”となっていく。しかも、サイバー空間には国境がない。これまで各国ごとに閉じていたシステムが相互に連結され、グローバルな”system of systems”になっていく。その過程で各国の制度的な対立・矛盾も顕在化し、データ流通に関わる各国のルールの標準化も求められるようになるだろう。

 長引くCOVID-19の影響の中、デジタル技術の重要性が改めて認識されるとともに、内向き・保護主義的なマインドが広がる傾向も見られるようになっている。こうした今こそ、幅広いステークホルダーを巻き込んだデジタル政策を巡る議論が一層重要になってきている。本フォーラムは、産学官の人たちが領域を超えて「個人」として集い、自由闊達に議論し、社会に提言する場となってほしい。そして、この「フォーラム・コラム」が新しい議論の契機、新しい着想を得る場の一つになることを期待している。

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