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誰もが何でも作れる時代の創造性とは?

花光 宣尚
慶應義塾大学 特任助教

AIガバナンスを巡る論点2025 #24
<特集> AI×クリエイター
私の視点

AIを使えば動画でもイラストでも音楽でも何でも作れる時代。クリエイティブはどこに向かうのか、もしや人間の創造性は衰弱してしまうのか――。産業・学術を横断して『ふれあうことを主体とする技術や体験、価値づくり』に取り組んでいる花光 宣尚 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科Embodied Media Project 特任助教の視点。

花光宣尚花光宣尚 慶應義塾大学 特任助教

生成AIが急速に普及し、映像、音楽、文章、ゲームといったクリエイティブの現場に広く入り込んできました。「誰でも作れる時代になった」と歓迎する声の一方で、「プロの仕事がなくなる」「AIはクリエイターの墓場」といった悲痛な叫びも聞かれます。

クリエイティブは大変な時代に入ったことは確かです。生成AIの進化につれ、コンテンツの制作環境は激変しました。かつては専門的な技術や長い経験が必要だった工程が、プロンプト一つで成立してしまう。映像、音楽、文章・・・数時間、数日かかっていた作業が、文字通りあっという間にカタチになってしまう。AIが大量の「それらしいもの」を生み出す中で、人間が手を動かす必要性は減り、クリエイティブの現場は様変わりしつつあります。

では、「誰でも作れる」時代にクリエイターは何を創るべきなのか――。この問いに対する明解な答えはまだありません。しばらくの間行ったり来たりの模索が続くと思います。ただ、一つ言えるのは、実際に触ってみた肌感覚、自分の身体を使った本物の体験、人と人との交わりの中で心から湧き出る喜怒哀楽の情、知識の枠をはみ出た所で起こるセレンディピティによる気づき――そういった(今のところ)人間にしかできないプロセスが、これまで以上に大切になってくるということです。

そもそも、人間の創造性とは何なのでしょう。例えば、芸術作品を鑑賞している時、ぼんやり音楽を聴いている時、歩きながら仕事のことを考えている時、突然、頭の中で何かがスパークして今まで考えもしなかったものがふっと浮かび上がってくる、そんな経験をしたことはありませんか。五感からのインプットが交じり合った時に一種の“化学反応”が起き、自分の中に何か新しいものが生まれてくる。まるで「夢」でも見ているかのような・・・。

自分が経験したことの組み合わせからできたものですから、自分にとってとても大切で、糧となるものであるようなありがたさ。誰かに指示されたものでも、コンピューターが計算したものでもない、確かに「自分」の内から生み出されたもの。言葉ではうまく表せないのですが、クリエイターと呼ばれる人たちに限らず、誰もが味わったことのある心の記憶なのではないでしょうか。

AI時代の入り口に立った今、新しいものを創り出すという人間ならではの行為をもう一度見つめ直し、その意味を問い直すことが必要になっています。人間のクリエイティビティはまだほんの一部分しか開花していない。AIは人間から創造性を奪うものではなく、人間の潜在能力を引き出し、創造力をさらに拡張するものであってほしいし、そうしなければならない。そのためにはどうすればいいのか――それが私にとって最大の研究テーマです。(談)


Interviewee

花光 宣尚 / Nobuhisa Hanamitsu

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) 特任助教

米国法人 Enhance Experience Inc.(エンハンス)/ Synesthesia Lab(シナスタジアラボ) Tech Lead

博士(メディアデザイン学)。研究領域は触覚表現やバーチャルリアリティ(VR)・共感覚体験のデザイン・身体論など。産業・学術を横断して『ふれあうことを主体とする技術や体験、価値づくり』に取り組んでいる。主な研究成果にシナスタジアスーツ(2016)、Haplug(2017)、シナスタジアX(2019-)、Malleable-Self Experience(2024)がある。