研究という営みが根本的に変わりつつある
高木 志郎
Unktok代表
AIガバナンスを巡る論点2025 #23
<特集> AI×クリエイター
私の視点
AIビジネスの創造に挑戦している若手起業家たちの眼には、どのような風景が映り、何を感じているのか――。AI時代の新たな研究システムの確立を目指すベンチャー、Unktokの高木志郎 代表の視点。
Unktok代表 高木志郎私は大学卒業後に株式会社Unktokを立ち上げ、機械学習研究を自動化するAIシステムの開発に取り組んでいます。今強く感じているのは、広い意味での研究という営みの前提が、根本的に変わり始めているという事実です。
生成AIの登場によって、研究の各工程は様変わりしました。論文はいちから精読するものではなくなり、要点はAIに整理してもらってつかむ。コードは人間が書くのではなく、AIに指示を与えて形にする。研究アイデアの整理や関連する膨大な研究の探索もAIが担う領域になりつつあります。研究プロセスの多くの部分が、急速にAIに委ねられ始めているのです。
仮説を立て、検証し、次の問いを生み出す――これまで人間が担ってきた工程の多くが、部分的に、あるいは連続的に自動化され始めています。「研究が速くなった」というプラスの側面の裏で、研究とは何か、研究者とは何をする存在なのかという定義そのものが揺らぎ始めているように感じます。
研究を支える制度や評価の仕組みは、依然として「人間が手作業で研究を行う世界」を前提に設計されています。論文という形式、査読というプロセス、研究費の配分、成果評価、等々、現状はAIが研究の一部を担うことを織り込んだものにはなっていません。
歪みも見え始めています。AIによってアウトプットの量が増える一方で、それを人間がすべて査読・評価することが難しくなりつつあります。これは誰かの努力不足や制度設計の失敗というより、前提としていた研究モデルと、現実とのズレが大きくなっていることの表れだと思います。
では人間はこれからの研究において何を引き受ければよいのか――。AIが問いの設計や仮説生成・検証を担うようになるなら、人間の役割は問いそのものへの意味づけ、社会的な文脈への接続といった部分に重心が移っていくのではないでしょうか。細かい作業はAIに任せ、人はどこに向かっていきたいのかという大きな目標を決めることに集中していく。もちろんその責任を引き受けるわけですから、簡単なことではありません。その過渡期に、今、私たちは立っているように感じます。
この変化は、研究者個人の創意工夫だけで吸収できるものではありません。研究のやり方が変わる以上、それを支える制度や公的支援のあり方も、少しずつ調整されていく必要があります。
そして、何より肝に銘じなければならないことは、日本人研究者だけが内に凝り固まっていては到底世界に太刀打ちできないということです。海外の第一線級の大学院生や研究者をもっと広く深く受け入れて、日本人研究者もそこに交わり合い、AI時代の知の創造を日本からリードするような環境を整備すること。非常に難しい課題ですが、日本にとってはそれが第一歩だと思います。
高木 志郎 / Shiro Takagi
Unktok 代表
