pagetop
AIガバナンスの論点2025バナー

3カ月で全社AI化、強い危機感で推進

MIXI
村瀬 龍馬 取締役 上級執行役員に聞く

AIガバナンスを巡る論点2025 #13
<最前線> 企業のAI利活用

OpenAIの生成AI「ChatGPT」が2022年11月にリリースされてから3年が経過した。日本の企業・組織における導入・利活用はどこまで進んでいるのか、今後の課題は何か――。AIガバナンスを巡る論点をあぶり出すシリーズ第13回は、MIXIの村瀬 龍馬 取締役 上級執行役員へのヒアリングの骨子を凝縮してお伝えする。(聞き手は、菊池尚人 デジタル政策フォーラム 代表幹事代理/慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 特任教授)

村瀬 龍馬村瀬 龍馬 MIXI 取締役 上級執行役員

AI利活用の現状

「AI利活用がなかなか進まないので、2025年3月に役員と部室長以上を集めた研修を行いました。すると、使い方が分からない、部下に任せている、他社の対応状況を知りたい、まずPoCを回そう、経営の意思が伝わってこない、といった声ばかり・・・。そういう考え方をリセットしましょうと訴えました。前例は、他社は、経営がって言うのをいったんやめて、それぞれの部署を自分自身がリードして、現状を突破するための施策を考えましょうよ、と」(村瀬 取締役 上級執行役員)

生成AIの登場から導入初期まで

  • ChatGPTリリース直後、経営陣(社長・取締役)がその可能性に気づき利用を開始。AIベースの経営に舵を切る
  • 2023年4月から「ChatGPT Plus」の利用料補助を福利厚生として運用開始、感度の高い社員が個人単位で使い始める
  • 2023年11月から自社開発した生成AIツール「Chat-M」(Azure OpenAIベースのLLMサービス)を社員向けに提供開始
  • 2024年4月、AIや業務改善に関する相談窓口となる全社横断組織「DX推進グループ」を設置
  • 2024年6月、生成AI利用ガイドラインを全面改訂
  • しかし、全社浸透はなかなか進まなかった。経営だけがやる気でも会社は変われない・変わらない

転機=AI推進委員会の発足、部室長以上向け集合研修の実施

【AIイノベーション・戦略委員会(AI推進委員会)】

  • 2024年12月発足。メンバーは経営陣および全部門の部室長(のちに各部署から選出された「AIアンバサダー」も参画)
  • 全社AI戦略文書(2025-2026)の策定・実行
  • AIエンジニア/利用者のレベル設定と給与連動
  • 経営アジェンダから戦術実行までの一貫サポート
  • 本部長・部室長の役割を明確化:リード(丸投げ禁止)、報告(毎月リポート提出)、推進(ROI算出、施策提案、等)

【部室長以上向け集合研修】

  • 2025年3月実施。AI委員会メンバーを中心とする約80名を2日に分けて
  • 極力スマホ・パソコンを触らず丸一日箱詰め(9:00-18:00+懇親会)
  • 単なるAI利用の研修にとどめず、講義の中心は、心理的安全性、Fireside chat(役員との直接対話)、部室長による各部署での活用方針・AI変革宣言
  • PoCはやらない。業務に即適用し最速で成果を出す方針を明確化
  • 満足度はDay1が97%、Day2が100%

集合研修後、一気に現場浸透

  • 2025年4月のテーマ: 全員がAIをベースにした考え方へ(社員用研修資料やポータルサイトでの展開)。アンバサダー制度(部室長+自発的メンバー)で部署間の横連携を促進。気軽な雑談の場、知見共有の場を整備
  • 2025年5月のテーマ: AIベースのモノを作る(成果・結果報告の習慣化、可視化)
  • 2025年6月: AIを触ってみるからの脱却(ROIを出す)
  • 2025年7月~: AIがないと機能しないワークフロー標準へ(「AIがないと仕事が進まない」月1万7600時間の業務削減を見込むMIXIのAI活用 | ビジネスジャーナル)
      ―見積もりは従来比80~90%削減からスタートし、AIを使わないと間に合わない状態に
      ―自部門の利益追求は進展。AIを横串に刺して部門を越境した展開へ
      ―AIによる製品の差別化、圧倒的なスピード感
  • 全従業員(約2000人)の99.02%が日常で生成AIを使用
  • 画像・動画作成、プロモーション素材作成などで劇的な時間・コスト削減効果(MIXI DESIGNのAI実践を加速するために。生成AIガイドラインをアップデートした狙いについて|Cocoda)
  • ChatGPT Enterpriseを全社導入(2025年3月)し、2000個以上のツール・チャットボットを作成・共有。法務・知財関連の問い合わせ、マネジメントツール、ゲーム事業等のデータ管理、デザイナー向けプラグイン生成・管理、等々
  • バックオフィス業務での効果が絶大。知財、財務・会計、人事、経営企画などでのAIエージェント活用が進展
  • 2025年度はAI活用によるコスト削減を通じて、約10億円の利益改善。特に外注費の削減が大きい。労働時間は月間推定17,600時間を削減見込み

今後の計画と展望

  • 全社展開と収益ドリブンの徹底:利用率99.02%から100%へ。売上・利益を直接伸ばすAIユースケースを積極創出
  • 少数精鋭チーム(5~6名)で新規事業を量産、グローバル市場に展開
  • 社内に取り残されているサイロ化データもすべて検索できるようにする。すべてのデータはAIのため、Agentが動きやすくするためのものへ
  • 3D生成AIをワークフローへ統合し、ゲーム開発のアセットコストを抜本低減
  • AIによるコーディングの推進、体制整備
  • 採用においては「生成AIを利用したことがある」を前提に
  • 「AIを使いこなす社員が高報酬を得る」を原則とする(AIを使うと生産量が増えるので評価も上がる)
  • MIXI AI活用年表

AI導入リーダーとしての心がけ・気づき

「AI導入で仕事がなくなり人が減らされるという脅威論がありますが、真逆だと思っています。人を削るのではなく作る量を増やす。今の人数で2倍、3倍どころか10倍のプロダクツを作る、爆速で。そして、日本の枠にとどまらず、グローバル市場で売りまくる。AI時代に勝ち残るための厳しい競争が既に始まっているのです」(村瀬 取締役 上級執行役員)

人間が最大のボトルネック

  • AIによって一つひとつの業務が迅速化しても、「人間の合意形成」がボトルネックになってなかなか結論・決断に至らず全体のスピードが落ちる(1週間後の会議で決めるなど論外)
  • 合意形成コストを最小化するためにはチーム単位をコンパクトにすること、権限移譲を徹底することが必要
  • リスク・コスト分析と選択肢抽出はAIに任せた方が速い。最終の決断は、リーダーシップに委ねるか、新たな合意形成ロジックを策定するか、そのどちらかしかないだろう
  • 取締役の役割は「監督」と「執行」。AIは監督が得意。ならば、取締役は「執行」に戻って、人間ならではの手触り感のあるモノづくりに集中できるようになる。経営陣の役割が変わる
  • 一方で、過去1年の変革を振り返ると「人の多様性」に心底驚く。技術の変化に対する人間の適応力は素晴らしい

なお残る強烈な危機感

  • AI環境の変化は速く、数週~1カ月単位で世界が変わる。経営のスピードやモノづくりのスピードをAIに合わせる必要がある(まだ足りない)。漫然としていれば2年以内に置いていかれる
  • AIの力を借りれば少人数で良いモノを大量かつ高速に作れるようになる。そうなった時、社員がMIXIに留まる理由は何か、社員を引き寄せるMIXIの魅力は何かが問われることになる。経営陣として、そのことを噛み締めながら進まなければならない

Interviewee

村瀬 龍馬 / Tatsuma Murase

MIXI 取締役 上級執行役員

2005年に株式会社イー・マーキュリー(現 株式会社MIXI)に入社。SNS「mixi」の開発に携わる。2009年に退職後、ゲーム会社などを経て2013年に再入社。主にモンスターストライクの開発業務に従事。2016年7月、XFLAGスタジオ ゲーム開発室長に就任し、XFLAGのエンジニア全体を統括。2018年4月、執行役員CTO就任。2019年6月、取締役執行役員CTO就任。2023年4月より現職。