デジタル政策フォーラム

デジタル敗戦国、日本。
そこから立ち上がるために
今、必要な政策を問う。

デジタル政策におけるグローバル連携の実現 (提言)

2023年4月
デジタル政策フォーラム[1]

 デジタル政策フォーラムは、2021年9月の発足以来、複数の提言を行ってきた[2]。今般、日本においてG7首脳会議(2023年5月)及びG7デジタル・技術大臣会合(同年4月)を含む関連閣僚会議が開催されるにあたり、デジタル政策の分野におけるG7の連携した取り組みがグローバルなデータ駆動社会の構築に大きく貢献するとの基本的考え方に基づき、デジタル政策におけるグローバル連携を促す政策パッケージについて提言する。
 データ駆動社会は、経済社会の抱える様々な課題をビッグデータ解析とソリューションの開発・運用によって解決していく社会(課題解決型社会)であり、今後の急激な人口減少と厳しい財政制約の中で課題解決型社会を構築するには、データの量、質(粒度)、流通速度という三つの要素の改善が決定的に重要になる。
 日本政府がG20大阪サミット(19年6月)等で提案してきたDFFT(Data Free Flow with Trust)はこうした考え方を表しているが、DFFTを実現するための議論は“総論から各論に”移行すべき時期に来ている。このため、
 (1) データの量を増加させるためのデータ連携の促進
 (2) データの質を向上させるためのデータセキュリティの強化
 (3) データの流通速度を向上させるためのサイバー国際ルールの整備
を同時並行的に進めるとともに、
 (4) 上記(1)から(3)の国際的整合性を確保するための国際デジタル協定の在り方の検討
 を進めるべきである。
 その際、収束に向かいつつある「COVID-19」や依然として深刻な状況にある「ウクライナ問題」の状況を踏まえ、現在、各国で利活用方法が議論されているAIも視野に、多用な価値観やステークホルダーを背景として、「決して後戻りしない利用者本位のデジタル社会」や「平和利用を前提とするデジタル技術」という原則を長期的な人類の利益のために常に念頭に置く必要がある。

(1)データ連携の促進

 まず、データ連携の制度的な枠組みを加速化する必要がある。例えば欧州委員会はデータ流通を促進するためのデータガバナンス法(Data Governance Act、23年9月適用開始)に加え、IoT生成データ等の広範なデータ共有促進を図るデータ法(Data Act)の制定を検討しているが、我が国においてもデータ共有の促進や健全なデータ取引(仲介)事業の成長を促す制度検討を進める必要がある。特にデータ取引事業の関連市場の拡大は、データという無形資産(intangible asset)の経済的価値を計測可能とする上でも有効である。
 その際、機微性を有するデータの生成・蓄積の是非、当該データに対するアクセス権の付与のあり方、データ共有における平常時と非常時の取り扱いの合理的差異など、データ流通のエコシステムのあり方についても検討を深めるべきである。
 同時に、プラットフォーマーに対する競争法の適用において、事後規制を主体とする競争法に加え、データの特性を踏まえた事前規制を広く導入する必要がある。これにより、プラットフォーマーによるデータ独占を排し、競争的な市場環境を確保することができる[3]。その際、データ関連市場は国境を越えて展開していることから、制度の国際的な整合性の確保や競争当局による国際連携のあり方について検討を加えることも重要となる。また、プラットフォーマーが優越的地位にあることが多いコンテンツ流通においても、メタデータをはじめとする各種データを整備・利用可能とすることにより、多様なコンテンツ流通が可能となる。
 さらに、全国各地で展開されているスマートシティについて相互連携性を確保する真の標準化による相互接続型スマートシティ(Interconnected Smart City)を構築し、より大きなデータに基づく都市経営を目指すべきである。その際、スマートシティはクラウドで提供される共通のシステムにすることによるコスト削減とセキュリティ強化、API(Application Programming Interface)の開放による課題解決のための民間ソリューションの導入、スマートシティとメタバースの連携による都市経営のシミュレーション機能の充実などを図るべきである。

(2)データセキュリティの強化

 データ駆動社会において、データの真正性(integrity)というデータの質を確保することは最重要の課題の一つとなる。データが流通する間に改ざんされると各種システムの誤作動などを通じ、社会的・経済的な混乱を招きかねない。このため、データ保有者の真正性の証明、データの送信時刻の記録及び非改ざんの証明(タイムスタンプ)、送達確認(eデリバリー)などをセットとするトラストサービスの制度整備を急ぐ必要がある。
 また、データの安全性を確保するための仕組みとして、データ仲介機関の第三者認証(登録)制度の整備や、データのサプライチェーンを確実に記録するとともに改ざん防止を実現するためのブロックチェーン技術を活用した取り組みなど、新たな制度的枠組みについて検討する必要がある。
 さらに、データ(情報)の質に直接的に関連する偽情報対策について、官民連携による取り組みを強化すべきである。偽情報対策は表現の自由や検閲の禁止といった趣旨に照らし、民間主導で行うことが基本となる。このため、ファクトチェック機関やプラットフォーマーの活動について国が民間と連携しつつ原則的なガイドラインを定め、これを基にファクトチェック機関等が自主的に運用ルールを策定・運用・公表し、これを事後評価してガイドライン見直しの是非を判断する共同規制のアプローチを採用することが望ましい。

(3)サイバー国際ルールの整備

 サイバー空間における国家の関与のあり方は国連専門家会合などで議論が進められてきたが、現行の国際ルールはそのままサイバー空間に適用されるべきとする旧西側諸国と中国・ロシア等との間に大きな溝がある。中国・ロシア等はサイバー空間における国家主権(サイバー主権)を認めるべきとの立場にあり、サイバー空間のルールは各国政府の協議により決定すべきというマルチラテラル(multilateral)主義をとる。これに対し、旧西側諸国はインターネットの発展してきた経緯に鑑み、「自律・分散・協調」を基本精神としつつ、国・産業界・アカデミア・市民社会など多様な集団の意見を持ち寄るマルチステークホルダー(multistakeholder)主義をとる。
 このように両陣営の議論の隔たりが解消されない状況の中、ロシア軍によるウクライナ侵攻が勃発した。この事案において、平常時と非常時の境目が曖昧なグレーゾーン事態(偽情報の流布による認知戦などを含む)や、武力攻撃とサイバー攻撃が併用されるハイブリッド戦争が現実のものとなり、サイバー空間において国際ルールが存在しないことの問題点が際立っている。
 上記の両陣営の議論の隔たりが大きい一方、人類共有の財産であるインターネット(public core internet)が果たす重要性に鑑み、かつデジタル冷戦とでもいうべき両陣営の没交渉の事態を回避する観点からは、旧西側諸国の有志国(like-minded countries)を中心に、データローカライゼーション(data localization)の禁止、民間事業者の開発したアルゴリズム等の国家による検閲等の禁止、AIのアルゴリズムに関する透明性確保、選挙システムや原子力施設など人類全体の立場に立ってサイバー攻撃をしない施設の明示など、サイバー空間におけるルールの国際的整合性の確保に努めるべきである。
 同時に、こうした各項目は法律によって規制されるべきものとは必ずしも言えない。共同規制や民間部門による自主規制など、いわゆるソフトローの適用の態様についても国際的な整合性が図られるよう努めるべきである。
 さらに、2022年12月に政府が決定した「国家安全保障戦略」等において、能動的サイバー防御(Active Cyber Defense)の導入検討が重要課題として取り上げられている。能動的サイバー防御の検討に際しては、国際法の理念を十分踏まえつつ、包括的な抑止戦略を明確にしつつ、妥当かつ有効な手法及び体制について検討することが適当である。

(4)国際デジタル協定の在り方の検討

 以上のとおり、(1)データ連携の促進の観点からは、データ流通促進のための制度整備、一定規模を超えるプラットフォーマーに対する事前規制の適用、相互接続型スマートシティの実現などを図るべきである。
 また、(2)データセキュリティの強化の観点からは、トラストサービスの制度整備、データサプライチェーンを確保するための制度的枠組みの検討、共同規制による偽情報対策の推進などが求められる。
 さらに、(3)サイバー国際ルールの整備の観点からは、有志国によるサイバー国際ルールの整備、ソフトローの国際的調和の推進、能動的サイバー防御のあり方に関する検討の推進などが求められる。
 このため、上記の検討項目についてG7を中心に集中的に議論を行い、成果を得られたものから順次、(4)国際デジタル協定として成果を整理し、DFFTの具体のルールとして運用するとともに、定期的にその運用状況を評価し、必要な見直しを加えることで改善を図ることが望ましい。
 上記の取り組みはG7にとどまることなく、ASEAN各国をはじめ近隣諸国との対話の拡大の主要テーマの一つとして掲げられることが期待される。また、データの経済的価値やデータ流通ルールなどの学際的な検討課題については、OECDなどの国際機関等の場の活用、新たな官民パートナーシップによる中立的組織やプロジェクトの組成を通じ、産学官民を交えた実効性のある議論が継続されることを強く期待する。

以  上


[1] 本提言はデジタル政策フォーラム(DPFJ)における議論を可能な限り集約したものであるが、DPFJメンバー(発起人及び賛同者)個人に属する意見やメンバーの所属する組織等の意見と異なる場合がある。

[2] 2022年6月、DPFJは提言「データ駆動社会の実現に向けた7つの視点」を公表した。 https://www.digitalpolicyforum.jp/proposal/

[3] プラットフォーマーのサービスはバンドル化されていることが多く、一定規模以上のMAU(Monthly Active User)数を獲得している事業部門は収益を独立して計上するなど、利用者データをどのように用いて収益性のあるサービスを提供しているのかという構造を公開する仕組みの導入も検討に値する。その上で市場支配力が認められるプラットフォーマーに対する公正競争確保のための措置(例えば、異なるサービス間の個人データの相互利用の制限や、適切な対価を支払うことを条件に競争事業者に同等な条件でのデータ利用を認めること)を講じることなども考えられる。